BOOK REVIEW コミケに迫る勢いの自主制作本の祭典! 第39回「文学フリマ」、戦場は東京ビッグサイト! PART1:映画関連出版物を探す
取材・文:田野辺尚人
文中敬称略
本が売れない現状であっても、本を出したい強い意志が支え続けた第39回「文学フリーマーケット」。モノレールに乗って「流通センター」に行く癖が出そうになったが、新橋で乗り換えゆりかもめで会場に向かう。コスプレとか成人指定コーナーは一切なく、小説創作、批評、その他諸々の手作りの本がずらりと並ぶ様は凄まじい。
ちょうど『映画秘宝』校了日前日ということで、速攻で猛烈に広くなったにも関わらず人の波の間をくり抜け会場に入りメモしておいた本(あえてZINEとは呼ばない)に狙いを定めて購入。帰宅にはすでに1冊読み終える。そこでまず「文学フリマ」で率先して探した映画本をご紹介します。
1 『ムービーウォッチメンとは何者だったのか? 『町山智浩とライムスター宇多丸は、映画語りをどう変えたのか?』のジョージに聞く』
前作にあたる『町山智浩とライムスター宇多丸は、映画語りをどう変えたのか?』を読んだ町山智浩が水道橋博士とのYouTube番組で、「遂に俺たちが研究対象になっちまったよ!」と、その考察と調査能力によって読者を圧倒した論客ジョージの新刊。黒地に黄色のタイトルロゴが入っているアラン・ムーア仕様の内容は、まず町山智浩と蓮實重彦の対立がポストモダンとモダンによるもの、映画には通過儀礼が重要な要素になっていること(ここでジョゼフ・キャンベルと島田裕己の『映画は父を殺すためにある』にも言及。この本の解説は町山智浩によるもの)が確認される。そして町山智浩と宇多丸は共に他者が出てくることで映画は成り立つと考えるとする。
宇多丸はヒップホップ・アーティストとしてラジオから映画レビューを放送する。そして『サイタマノラッパー』のレビューでは、最初は海外から入ってきた借り物の表現で、実際には何もなかった日本にラップが定着するまで「止まるなよ!」と訴える。また反動思想家の佐々中と宇多丸は何度も対談をして、自らの血肉となっていることも指摘。宇多丸の映画語りがYouTuberの映画サイトに多大な影響を与えていることを指摘。次は宇多丸から数多くの映画系YouTuberがどんな新しい言葉を出してくるのか、非常に気になるところで完結。ちなみに水道橋博士も「文フリマ」に赴き、ジョージより1冊購入している。こちらもジョージの相棒で特殊評論家の麗日のブースに伺い、彼が出した「文学フリマ」そのものをレビューする新刊を購入しようと思ったら「売り切れました」。
2 『さよならレンタルビデオⅢ〜さらば映画の手ざわり〜』
本noteでも活発に新人監督から奇妙な映画までを取材・リサーチする後藤健児は、今はもうなくなっていることにされているビデオをネットでレンタルさせる「カセット館」の経営もしていたが、今後それを止めるという。薄利多売がレンタルビデオの命綱。それだけでも大変なところに、貸し出したビデオが大量の未返送、カリパクされてしまった。もう店は続けられない中において、『さよならレンタルビデオ』3巻を出した。異色作紹介だけでなく、90年代に横浜にあったというレンタルビデオロボット(自分も同じ市で暮らしていたが、これは知らなかった)、最後には町山智浩と柳下毅一郎のユニット「ファビュラス・バーカー・ボーイズ」がテレビに初出演したビデオで終わるのであった。全3冊、BOOTHにて購入可能。
3 『六〇年代の日本とATG映画』
映画評論コーナーで目立っていた1本。まだ若い著者に聞くと「60年代が大好きなんです」という。今は消えてしまった日本製ATG映画を抜き出してレビューする構成。60年代終わりの風俗についても一所懸命に調べて書いている。大島渚が「1000万映画、いいじゃないか!」と盛り上げた運動でもあったATG、その革新的製作方法で挑発的な映画が続々作られる。各映画のネタバレ堂々のレビューにおいて、今村昌平の『人間蒸発』はやはり恐ろしい映画だったと実感させられた。
この本を購入したいと思った人は、著者に連絡を取ってみてほしい。
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yumeno.q69@gmail.com
4 『続 荒野のライナーノーツ』
好評を呼んだ前著『ライナーノーツ』に続く2冊目。「続と書くとどうしても“荒野の”とつけてしまう」篠崎誠がDVDのライナーに寄稿した原稿を集めたものに、黒沢清、遠山純生といった面々と語り合う怪奇映画談義も収録して、ページ数も増えた。売り場にいた篠崎監督と目があったら「イーストウッド、どうなるんだろうね?」と、そういう時期だった。冒頭の「北野武 試論」はレーザーディスクBOXに収録したもの。『ソナチネ』で話題が止まっていて、当時の北野映画の先にあるのは『キッズ・リターン』だろうと鋭い分析、さすがの展開だ。LDやDVDに書かれたライナーノーツが表に出ることはあまりないので、これは映画史に残るプロジェクトだ。DVDが勢いのあった頃、パッケージを開けると入っていたライナーノーツ。スティングレイから出版されたビデオパッケージ集『ワイルド・ライフ』は表と背、そして裏に書かれた解説を読ませる1冊だった。めちゃくちゃな解説も多かったが、それもまた幻の映画資料になる。まずは光山昌男の収録本を希望。
『続 荒野のライナーノーツ』は新宿ビデオマーケットで発売。Xの情報によれば残り10冊をきったとのこと。急いでビデオマーケットに行こう。
『暗黒の昭和史 変身人間事件簿』
最後にピックアップしたのは、「文フリ」開催の1ヶ月前、切通理作が店長を務めるネオ書房/ブックカフェ20世紀 神保町で発行イベントもあった、東宝変身人間シリーズの世に存在しないパンフレットを自分たちで作るという企画のひとつだ。オールカラー86ページ。切通理作の論考、井口昇映画など積極的に楽曲を提供する福田裕彦による楽曲分析など読ませるが、それ以上に凄いのはこの映画が作られた昭和という時代に“本当に起こった怪事件”として紹介している点だ。これには参った。デザインの文字選びも昭和の雑誌タッチ。これで『透明人間』から『マタンゴ』の恐ろしさを表現しているのには心底マイッタ。
いま映画業界は危機的状態にあって、チラシを減らし、パンフレットも発売しないケースが多い。『グラディエーターⅡ英雄を呼ぶ声』はリドリー・スコットの超大作であるにも関わらずパンフレットを出さなかった。写真のセレクトからテキストまで本社の許可を取らねば出せないのだ。だからこそ、同人誌形式の解説ブックレット出版が重要になってくる。映画業界、相変わらず厳しいのだ。取り扱いは前述のネオ書房、CAVA Books、タコシェ、模索舎など。マスト・バイ。
次回予告
世界各国で目撃される空飛ぶ円盤UFO。果たして彼らの目的は何か? 次回「木曜スペシャル」にご期待ください!