【第37回東京国際映画祭レポート】「「戦争ほどのホラーはありません。人間が巻き起こす残虐こそがホラー」、太平洋戦争末期、日本兵VS半魚人! ディーン・フジオカが水棲人類と戦う『オラン・イカン』がワールド・プレミア。マイク・ウィルアン監督がモンスター愛を語る
タイトル写真『オラン・イカン』より半魚人
取材・文:後藤健児
10月28日より開催されている第37回東京国際映画祭で、ディーン・フジオカ主演の半魚人映画『オラン・イカン』(シンガポール/インドネシア/日本/イギリスの共同制作)が上映された。11月3日、有楽町よみうりホールでの上映回後、監督のマイク・ウィルアンが登壇し、半魚人映画に懸けた思いを語った。
第二次世界大戦中のインドネシア。日本兵の斎藤は、ある罪で軍法会議にかけられることになり、敵国の捕虜と共に日本への輸送船に乗せられていた。しかし、海上で連合軍の攻撃を受けた船は沈没。斎藤、そしてイギリス人捕虜のブロンソンの2人は、見知らぬ島に流れ着く。言葉の通じない敵国同士の2人だったが、謎の水棲人型生物が姿を現したことから、生き延びるために協力関係を築く。果たして彼らはフィッシュマンが巣くう、太平洋の地獄から生還することができるのか……。
戦争中、孤島に流れ着いた日本兵と敵国の兵士が織り成す物語といえば、三船敏郎とリー・マーヴィンが出演した、ジョン・ブアマン監督『太平洋の地獄』が真っ先に思い出されるだろう。本作はそこに東南アジアの諸島に伝わるフィッシュマン伝説を取り入れた。登場するフィッシュマンは水陸両用で、ジャングルでも俊敏に動き、兵隊たちも軽々となぎ倒す。傷ついた体を未知の薬草で治療するところなども含め、かなりプレデターしている。容赦なく人間の首を引き抜いて、放り投げてくるゴアな活躍も見せてくれるサービス精神の旺盛さには拍手喝采だ。対する日本兵の齋藤を演じるのはディーン・フジオカ。本人は英語を含めた数か国語が堪能なものの、劇中では英語を解せず、奇妙な相棒となったイギリス人捕虜ブロンソン(演:カラム・ウッドハウス)と不器用なコミュニケーションを経ながら友情を育んでいく様子を演じた。『Pure Japanese』でも見せたソードアクションは健在で、日本刀を構えてフィッシュマンと繰り広げる死闘は、『プレデターズ』でのヤクザ対プレデターの激闘を凌ぐほど。
監督・脚本を務めたマイク・ウィルアンはイコ・ウワイス主演『ヘッド・ショット』などをプロデュースし、2018年には19世紀のジャワ島を舞台にした西部劇『バッフォローボーイズ』で監督デビュー。本作でも、ジャンル映画愛に満ちた作品を手掛けた。
登壇したウィルアン監督は「僕自身、モンスターやホラーの大ファン」と言い、『大アマゾンの半魚人』など名作ホラーの名前もあげながら、本作の着想について語りだす。
それは、第二次世界大戦中に日本兵がインドネシア東部のカイ諸島で半魚人を目撃したという、実際に伝わる話だった(UMA好きには有名)。日本兵が現地の住民にその話をしたところ、村人たちは存在を知っていたという。それがオラン・イカンだ(「オラン」は「人」で、「イカン」は「魚」という意味)。その伝承から「海の中には何かがいるんじゃないか」と普遍的なテーマを感じとったのだとか。また、影響を受けた『太平洋の地獄』のことについても触れつつ、「違いのある2人が試練に直面し、それを乗り越えていく反戦映画でもあります」と言い、「戦争ほどのホラーはありません。人間が巻き起こす残虐こそがホラー」と続けた。
登場する半魚人はCGではなく、着ぐるみで撮影された。
中に入ったのは、『ゴジラ キング・オブ・モンスターズ』でキングギドラの3つ首のひとつを演じたこともあるアラン・マクソン。彼との苦闘をウィルアン監督が語る。「伝統的なスーツアクトで挑みましたが、ジャングルは33度もあり、洞窟やビーチなどの水の中でも撮影しました。アランは情熱をもって取り組んでくださいましたが、非常に過酷でした。視界が悪く、耳もよく聞こえない。私はアランと手話でコミュニケーションを取っていました」と振り返り、それでも最後には「映画というのは、血と汗と涙で作る結晶。すべて、やりつくした満足感があります」と皆の努力のもと、本作を作り上げたことをしみじみと話した。
主演のディーン・フジオカについて。「ディーンさんは脚本を読んですぐに内容を理解してくれて、情熱を共有することができました。主人公の斎藤は非常に哲学的な人物。哲学的なアプローチをディーンさんはしてくれた」と称賛。
観客からの質問で、アクションシーンにおいて意識したことを問われると、「斎藤は武士道をマスターしており、血の気の多いブロンソンはいわゆるストリートファイトのスタイル。そして、半魚人はハンターのよう」とそれぞれのキャラクターに合ったファイトスタイルを設定していることを明かした。振り付けに関しても、「洞窟や水などの自然環境に順応する必要があり、状況によってファイトスタイルを変えました」とコメント。続けて、「アクション映画の中には、ずっと動いているのに、いつまでも元気なものがありますよね(笑)。でも、本作で出てくる彼らは、お腹もすいているし、疲れきっている。だから、エネルギーがない感じも出すように心がけました」とリアルさも取り入れていることを語った。
サムライのような雰囲気を醸し出す斎藤は、生きることへの独自の考え方を持っている。それに絡めて、命に対する考えについて聞かれた監督が口に開く。「斎藤は、あの島では自分がよそものだとわかっている。半魚人の住む島へ戦争によって連れてこられ、自然の摂理をけがしていることを理解しています」と説明。島に着いた齋藤が自死しようし、それをブロンソンに止められたことが、のちの展開で重要な要素となることに言及し、「終盤では、彼と半魚人との間で心が共鳴します。彼は半魚人の中に自分を見たのです」と結んだ。
Q&Aの最後には、「日本で公開されたらぜひ周りで広めていただいて、皆さんが気に入ってくれたら、パート2があるかもしれません」と笑顔で伝え、観客からの拍手を受けながら壇上を降りていった。【本文敬称略】
第37回東京国際映画祭は10月28日から11月6日まで開催。
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