BOOK REVIEW 昭和アウトロー時代劇の極北『必殺』シリーズを、2年間で4冊の取材本にまとめた必殺取材人・高鳥都著『必殺シリーズ談義 仕掛けて仕損じなし』
高鳥都が立東舎から刊行しているテレビ映画「必殺」シリーズの聞き書きドキュメント、遂に4冊目『必殺シリーズ談義 仕掛けて仕損じなし』が発売された。この新刊にあわせて日本全国56の書店で「高鳥都の必殺本まつり」も開催され、インフォメーションを回してほしいと連絡を受け、その際、
「今度は俳優たちがメインのインタビュー本です。河原崎健三さんにも取材しましたよ」
「えっ! 『新必殺仕置人』で最強の殺し屋兼用心棒の死神のインタビューが入るの!?」
「はい。でも死神って本当に人気あるんですねえ」
そんな会話を交わしたのだった。それから数日後、『仕掛けて仕損じなし』の見本を送っていただいた。全部で15人の俳優たちが自ら関わった「必殺」番組の思い出、監督たちや逝去した俳優たちへの想いを語っていく本だ。高鳥曰く俳優インタビュー集という「本来オーソドックスな仕掛けが吉と出るか凶と出るか」と覚悟を決めたまえがきを書いている。
果たして、その勝負は大吉となって世に出されることになった。巻頭に置かれたのはシリーズ第1作『必殺仕掛人』で剣客の仕掛人・西村左内を演じた林与一。彼が故・山内久司より帝劇の下にある喫茶店「羅生門」(凄い店名!)で出演依頼を受け、クレジットの順番や演技の方法で緒形拳とのやりとり、スタート当時の撮影現場の模様を語り出す。それを読み進めていくと不思議なことに、林与一の言葉が印刷されている本の奥から「必殺シリーズ」のメインテーマ曲にして『仕掛人』のエンドクレジットに流れる『荒野の果てに』が聞こえ始めるのだ。林与一は先に出されたシリーズでも印象的に語られた深作欣二、三隅研次といった監督たちの中で、最も多くのエピソードを評価が定まることのない松野宏軌について、あっさりと彼の立ち位置を話している。
林 松野さん、おもしろかったね。ベテランなんだけど、石やん(注:石原興カメラマン)に全部やられて気の毒だった。「石っさん、このカット……」「いらん、そんなもん!」「いや、手水鉢のところのアップ……」「使わへんやろ。いらんいらん!」「使わへんけど、撮って!」って、そういうコンビ(笑)。 P21
この林与一の発言はシリーズ最初の著書『必殺シリーズ秘史 50年目の告白録』の冒頭に置かれた石原興の証言とリンクが繋がるのだ。ここに来て、この無冠の職人監督の輪郭が浮かび上がる。冒頭からエキサイティングな証言がどんどん飛び出してくる。
前3作ではスタッフたちの証言を経て山﨑努や中村敦夫といった大御所が登場、本の幕を閉めていく作りだったが、今回はスタッフよりも俳優の証言がメインになっているので、それぞれの出た番組をキャラクターの演者として回顧していくのも興味深い。たとえば『必殺仕事人Ⅲ』の受験生仕事人、ひかる一平が演じた西順之助の取材も興味深い。アイドルが「必殺」シリーズに出るのは如何なものか? というコアなファンの意見以上に大きな問題になったのは、「受験生に殺しをやらせるのは問題だ」とクレームがきたところにある。順之助は最初エレキテルで“仕事”をこなしていたが、この問題によって続編にあたる『必殺仕事人Ⅳ』では何でも屋の加代(鮎川いずみ)と2人がかりで投石機を使うようになり、シリーズが重なるにつれ殺しの道具も変わっていった。これはクレームが来るほど「必殺」シリーズがポピュラーになっていった証でもある。
シリーズ中、中村主水が左遷される荒みきった世界観で殺伐としたドラマが逆に魅力となった『必殺仕業人』ではやいと屋又右衛門を演じた大出俊は、この作品の世界も実際に収録中の馴れ合いや人間関係のベタベタしたところがなかったと語る。撮影現場での人間関係が『必殺仕業人』のハードな作風に見合ったのではないだろうか?
そして『新必殺仕置人』の死神を演じた河原崎建三の興味深い証言は圧倒的である。これは実際に読んでもらうしかないのだが、タイトルに添えられた「正八、オマエ、イイヤツダ。」のセリフ抜き(「愛情無用」より)にグラリとこない読者はいないだろう。仕置人組織「寅の会」を率いる虎の用心棒で裾から飛び出すモリを投げるギリヤーク人の最強の殺し屋・死神と河原崎建三の人生が重なっていく発言には圧倒される。
他にも石坂浩二、ジュディ・オング、近藤正臣、伊吹吾郎、三田村邦彦、西崎緑、京本政樹、村上弘明、柴俊夫、梅沢富美男、かとうかず子が、1970年代の試行錯誤の時期から80年代に訪れる「必殺」ブームとその終焉をそれぞれの視点から語る。俳優たちが見た「必殺」シリーズの作りかた、時代劇ファン、ハードボイルドファンにも充分に堪能してほしい。
『映画秘宝』2025年1月号(11月21日発売)での連載「映画の本、みだれ撃ち」(高橋佑弥×山本麻)でも『必殺シリーズ談義 仕掛けて仕損じなし』が取り上げられます。そちらもぜひお読みください。
【本文敬称略】(編集部・田野辺)