映画秘宝秘史1 大神源太を追いかけろ! 謎のアクション映画『ブレイド・オブ・ザ・サン』騒動
2002年の春、『映画秘宝』が気合いを入れていたのが『少林サッカー』だった。クロックワークスとギャガの合同配給で、正月明けから、気心の知れた宣伝担当に、あのシーンのスチールが欲しいとか、チャウ・シンチーはじめとするキャスト来日の際の取材枠の確保であるとか、いろいろと交渉ごとをして頑張った(この映画で人気ブレイクするヴィッキー・チャオを表紙にしたかったのだが、それに合うような写真がまだなかった)。
『少林サッカー』には強烈な思いがあった。前年の2001年の暮れ、その年のベストテン号を作っていたとき、当時は神保町にあった編集部に突然、素性の知れない青年がやって来て、「これ、凄い映画なんです。ぜひ特集してください!」と『少林サッカー』の輸入盤DVDを置いていったのだ。今から思えば不審な振る舞いの青年だったが、『少林サッカー』を観て、高まった気持ちのまま、編集部までやってきた心情に刺さるものがあった。
しかし、その熱心な青年には伝えられなかったが、当時の『映画秘宝』界隈で、『少林サッカー』は相当の話題作だったのだ。まだ試写は始まっていなかったが、輸入DVDをみんな買っていて、改めてチャウ・シンチーは凄い! と話題になっていた。当時の香港映画の3大トピックはジョニー・トーの新作、ドニー・イェンの動向、そしてチャウ・シンチーだった。チャウ・シンチーはブルース・リーのファン活動も含め、大きなシンパシーがあった。
彼らの作品で日本未公開のものは神保町と九段下の中間地点の雑居ビルにあったアジア映画の専門ショップで入手した。今でこそ、輸入ソフトの専門店は東京だと新宿のビデオマーケットしか残っていないが、当時は輸入雑貨店で映画のTシャツやお香や『スポーン』のフィギュアやアメコミのバックナンバーと一緒に輸入と怪しい海賊版のDVDを買うことができた。怪しい路線では石井輝男の『恐怖奇形人間』とウルトラセブンの12話、そして字幕入りの『ノストラダムスの大予言』の御三家に加え、これは『映画秘宝』からネタを拾って来たのではないか? と思った『明智小五郎 殺人金魚』やTV版『ワイルド7』全話収録BOXなんてものまであった。
ホラーを中心に正規の輸入DVDはビデオマーケットで購入し、ビデマで買うことのできなかった怪しい海賊版は今ではその痕跡も残っていない輸入雑貨屋で買う。画質は悪くても、その内容を知るためには必要なものだった。
話を『少林サッカー』に戻すと、公開された2002年は日韓W杯があって、世間のサッカー熱が高くなっている時期だった。『少林サッカー』の上映館には香港映画マニアだけでなく、サッカーが好きそうな中高生世代の観客が多く来ていた。彼らはチャウ・シンチーの繰り出すギャグにダイレクトに反応し、劇場内は楽しい雰囲気だった。このように映画が受けるのはとてもいいことだなと思った。
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