「トランプが当選したということは、アメリカ人たちは麻薬を選んだんです」映画『アイアム・ア・コメディアン』ウーマンラッシュアワー村本大輔さんロング・インタビュー(秘宝公式note掲載前編)
「テレビから消えた男」として、活躍の場を舞台に移してスタンダップコメディに挑戦するウーマンラッシュアワー村本大輔さんの軌跡を辿ったドキュメンタリー映画『アイアム・ア・コメディアン』。原発などの社会問題に真摯に向き合いながら笑いへと昇華させる姿から、お笑いファンのみならず、多くの人の間で今もなお話題を集めている。アメリカ大統領選でトランプが当選を果たした翌日、ニューヨークにいる村本さんにオンラインでインタビューを敢行。トランプが大統領に返り咲いた現地の状況をはじめ、『アイアム・ア・コメディアン』の中で思わず見せた弱音、そして12月20日に虎ノ門ニッショーホールで開催される独演会「Call me the GOAT at ニッショーホール」についてお聞きした。
<文責>取材・文◎『映画秘宝』編集部(今井)
●心臓が止まったかのようなニューヨーク
——アメリカ大統領選挙が終わった現在(ニューヨーク時間11月6日20時)、ニューヨーク在住のウーマンラッシュアワー村本大輔さんにいろいろとお話を伺えればと思います。
村本 いまジャーナリストの金平茂紀さんがニューヨークにお越しになられているので、この取材が終わったら一緒にコメディクラブを観に行くんですよ。トランプが大統領に当選を果たして、ニューヨークのリベラルな芸人たちが今夜どういうことをネタにするのかなと思ってね。
——トランプが再び大統領に当選という結果になったわけですが。
村本 昨日の夜に大統領の結果が出て、今朝のニューヨークは去勢手術を施された飼い猫が家に帰ってきた時みたいに大人しくてね。お店に入っても店員さんの声のトーンが2つほど下がった感じで活気がなかったですね。僕がそう思い込んでいるだけかもしれないけど。シカゴにいるアメリカ人の友達が言うには、2008年にオバマが当選した時はアメリカを包み込む空気そのものが色付いていたと言うんですね。あの当時、僕はアメリカにはいなかったけど、オバマ当選時の祝祭的な雰囲気と比べて、今回は本当に心臓が止まったような気配を受けました。
——それがもう痛いほど伝わってくる感じなんですね。
村本 僕は選挙前にテキサスのショーにも参加したんですけど、あそこは共和党が強いところじゃないですか。この選挙真っただ中、トランプを支持しているテキサスと、カマラ・ハリスを支持しているニューヨークの両方を行き来して、如実に街の空気の違いを感じましたね。特にニューヨークは、選挙速報でトランプ優勢と伝えられるたびに、「もうこれはダメなんじゃないか」という空気に包まれていくわけですよ。そんな中でコメディクラブに行ってみたんですけど、芸人さんたちは一応今回の選挙をネタにはしているものの、明らかに普段のような勢いが見られず、お通夜みたいな空気でした。
●トランプが当選した理由
——村本さんご自身は、なぜ再びトランプが選ばれたのだとお考えでしょうか?
村本 今回、トランプを支持している人たちの動画を観たんですよね。そしたら、「アメリカの退役軍人でホームレスになる人が多い中で、バイデン大統領はメキシコの難民たちに対して犯罪者であろうと無償で住宅を与えている。トランプはそれを阻止しているんだ」と主張していたんです。それでChatGPTなどを駆使して、それが事実なのか1つ1つ調べていったんですよ。僕は以前、フジテレビで漫才やった際に福井県には原発が4カ所もあるとネタにしたら、「福井県のもんじゅは高速増殖炉であって、正確には原発ではない」と指摘されたことがあって、ファクトチェックにはうるさい方なので(笑)。それで調べた結果、完全に誤報だということが分かった。だけど、アメリカの人はそこまで調べない人が多くいて、そういう人たちが無闇に危機感を煽られてトランプを選んだと思うんですよね。
——不正確な情報に踊らされてしまった人が数多くいたと。
村本 やっぱりトランプが当選したということは、僕の中でアメリカ人たちは麻薬を選んだ感じがあるんですよ。騙されて購入したクスリというか、白人至上主義の人たちからすれば、トランプはまさに自分たちの夢を叶えてくれると思わせる存在で、強烈な快楽をもたらすけど、それだけに副作用もすごい。2020年にトランプからバイデンになった時、白人至上主義者たちは麻薬が切れたような状態に陥って、とうとう議事堂を襲撃する事態にまで発展してしまった。プラウド・ボーイズとかね。まさに麻薬が切れて禁断症状の人間が取るような蛮行じゃないですか。とにかく麻薬的な強い指導者を求めているのは、それだけアメリカ国民が非常に不安症になっている証拠だと思うんですよね。
●それでも笑いに変えていく
——今回の大統領選で民主党候補がバイデンからカマラ・ハリスになって風向きが変わったと思われましたが、そうではなかった。
村本 カマラはご存知の通り文化的な理解が深くて、例えばLGBTといった多様性にも目を向けて人権的な問題を訴えた。それでニューヨークやロサンゼルスではおおいに歓迎されたけど、トランプ支持者の人たちにとっては、それよりも日々大変になっていく目の前の生活のほうが大切で、カマラに対しても「お前は結局バイデン政権で副大統領だったのに、その時は何も言わなかったじゃねえか」という怒りが強かった。だからトランプという麻薬に手を出したということは、ある種、彼らからすれば「自分たちで立ち上がらないといけない」感じではあったと思うんですけど。
——村本さんはこれからのアメリカの行く末に対して、どのような思いでしょうか?
村本 先ほども言ったように、昨日コメディクラブに行ったらお通夜のような雰囲気でみんなが落ち込んでいた。だけど、司会者の女性が「来週には、私たち沢山ネタを作らないといけないんだよ」と言って盛り上げたんですよね。だから、アメリカのコメディアンたちが唯一銀行でお金を借りられるのはこの4年間だという(笑)。これから4年間トランプが大統領として居続けてくれれば、それだけコメディアンとしてネタは保証されて、食いっぱぐれる心配はない(笑)。混沌とした中で僕がやるべきことは、やっぱり「変だ」「おかしいな」「馬鹿だ」と思ったことをコメディにするということですので。だから冷静に状況を見て、その都度ツッコミを入れて、笑いにし続けたいと思っています。
●『アイアム・ア・コメディアン』について
——村本さんと言えば、「テレビから消えた男」として被写体となったドキュメンタリー映画『アイアム・ア・コメディアン』が今夏公開されて、現在も話題を集めています。11月20日からは池袋の新文芸坐でも上映されますが、改めてこの映画が作られることになった経緯を教えていただけますでしょうか。
村本 5年ぐらい前に、NHKさんから「村本さんで特番を作りたい」と打診されて、僕がニューヨークでスタンダップコメディをしてみたいと話をしたところ、「1カ月間かけて密着取材をしましょう」ということになったんです。だけど、僕がX(当時Twitter)で「大麻は合法化した方が良い」と投稿したことで番組を降ろされてしまって。それでもスケジュール自体は1カ月間まるまると空いている状況じゃないですか。だから、プライベートでニューヨークに行って、自分の力だけでスタンダップコメディに挑戦しようと思ったら、その特番の制作会社の方が僕の熱心なファンで、「どうしても村本さんを撮りたい」と無償でニューヨークまで来てくれたんです。
——特に番組にするアテもないまま取材が行われたわけですね。
村本 そうですね。ニューヨークでお笑いをやってる僕の姿を見てさらに興味を持ってくれて、それから本格的に密着取材が始まったわけですよ。僕は2017年を境にテレビ出演数が極端に減ったんですけど、そういった中でも監督はずっと付きっきりでしたね。コロナ禍で舞台もままならなくなった時、自分の父親が亡くなった時も密着してくれて、僕を追いかけ続けてくれた。それで「テレビから消えた男がその後、どのような道を歩いているのか」という構成でまとめて、1本の映画にしたということです。
●舞台の世界を極めたい
——映画の中盤、楽屋に戻った村本さんがマネージャーさんに対して、先行きが見えないコロナ禍でこれからどうすればいいのかと、思わず心情を吐露してしまう。その場面は直接画面には映らず、音声だけのやり取りということも含めて非常に印象的でした。
村本 あの時はコロナ禍真っ只中で、絶望感に打ちひしがれていたのもあって。当時は人が密集する劇場でネタをするなんてもってのほかで、独演会を開催しても、お客さんはコロナに感染するかもしれないリスクを背負って来てくれるわけですよね。そのジレンマだらけの中で非常に強くストレスを感じていました。いつ収束するのか分からない中で、テレビから離れた自分がようやく見つけた居場所が奪われていく感覚でしたよね。
——村本さんが軸足を舞台に移された矢先のコロナ禍でしたから。やはり舞台に対して強いこだわりが?
村本 ダウンタウンさんも若手の頃は漫才をやっていたように、多くの芸人はまずネタ作りから始めるわけじゃないですか。それでM-1グランプリなどで優勝して本格的にテレビの世界に移っていく。それが芸人として成功と言われている大まかな流れですよね。だけど、果たして舞台からバラエティ番組に行くのは、コメディアンとして進化と呼べるのだろうかと思うことがあって。僕はTHE MANZAIで優勝した義務ではないですけど、バラエティに行くよりも舞台の世界を極めたい、ネタで勝負したいという気持ちが強くあって、ある時からマネージャーにお願いしてレギュラー番組をどんどん切っていったんです。
——「テレビから消えた男」と称される村本さんですが、自ら出演を辞退していったのもあったのですね。
村本 一応、秋元康さんとAbemaTVの藤田晋社長には義理があるので、彼らの番組には出ていましたけど、それも区切りを付けて舞台の上だけでやっていくと覚悟を決めてアメリカに渡ったんですよね。だけど、コロナが襲ってきて舞台がなくなってしまったわけですよ。唯一のものとして選んだ舞台が、世の中において最もやってはいけないものに変わってしまった。僕はZOOMやYouTubeでネタを披露するのも違和感があって、やっぱり足を運んできてくれたお客さんと同じ空間で、直接彼らに向かってネタをやりたいんです。
●日本でスタンダップコメディを披露することの意味
——村本さんは11月15日に帰国されて全国各地でスタンダップコメディの独演会を行います。特に12月20日には虎ノ門のニッショーホールという大きなキャパで単独ライブ「Call me the GOAT at ニッショーホール」が控えています。日本でスタンダップコメディを披露することに関して、どのような思いでしょうか?
村本 アメリカで経験したことを日本で出して、日本で経験したことをアメリカで出していく感じですかね。僕は国や言葉を問わないですが、日本からアメリカへと場所を変えたことで、やっぱり自分の中で刺激を受けたし、いろんな経験をしたことが自分の糧になったわけですよ。例えば料理人は日本だけじゃなくて、フランスやイタリアに行って修行するじゃないですか。でも、お笑いはずっと同じ世界に留まっていますよね。
——そうですね。
村本 いつもと同じ先輩・後輩といった仲間と一緒にテレビに出続けていても、それこそ籠の中の鳥みたいな感じで、最終的に身内の話しかしなくなるじゃないですか。だけど、外の世界では人々の生活は目まぐるしく変化しているわけですよ。その中で政治に疎い奴らが何も考えず自民党を選んでいる。アメリカでも「トランプを選ぶんかい!」という状況で、日本とアメリカの両方でいろいろと思うこと、気づいたことがいっぱいあった。普段の僕はニューヨークのコメディクラブの舞台に上がって英語でネタを披露しているわけですが、英語という枷を外してネタを披露したら、「どんなことになるんだろう?」と自分でも未知数なんです。なんか『ドラゴンボール』で孫悟空が重たいリストバンドを外すような感じですね(笑)。
——村本さんは常に新作を披露されていますね。
村本 常に自分の中で、日本語でネタをやる際は去年よりも良いものに仕上げようというルールを課しているので。12月20日のイベント名「Call me the GOAT」の「GOAT」はアメリカのスラングで「史上最高」という意味で、「史上最高の自分」でいなければ、それこそ良くない年の取り方をしているということですから。だから、自分が良い時間を過ごしてるかどうかの確認作業でもありますよね。日本で衆院選があって、アメリカでもトランプが大統領に選ばれた。あらゆるところで暴力的なものが歓迎されているのも、逆に言えば人間そのものが弱くなっていることの証でもあるのかなと。僕のライブはそういったことをコメディとして打ち出したいですよね。だから、覚悟して観に来てほしい(笑)。
※村本大輔さんのインタビューはまだまだ続く!?
後編はニューヨークで孤軍奮闘する現在の状況から、スタンダップコメディに対する想い、そしてこの混迷の時代にお笑いをやる意義など、より深い話題に。
2024年12月20日発売予定の本誌『映画秘宝』2025年2月号にて掲載!
◉『アイアム・ア・コメディアン』作品スペック
『アイアム・ア・コメディアン』
2022年/108分/日本・韓国/ドキュメンタリー
監督:日向史有
出演:村本大輔、中川パラダイス
配給:SPACE SHOWER FILMS
公式HP:https://iamacomedian.jp/
©2022 DOCUMENTARY JAPAN INC.
◉『アイアム・ア・コメディアン』告知情報1
池袋・新文芸坐
11/20(水)・21(木)・24(日)・25(月)
「スタンダップコメディアンという職業」
『レニー・ブルース』『アイアム・ア・コメディアン』上映
一般1500円、各種割引1100円
チケット:上映1週間前の0:00よりオンラインにて販売(窓口は9:00より販売)
※チケット購入後の変更・払い戻しはできません
※オンラインでの販売は上映の15分前まで(以降は劇場にてお買い求めください)
詳細は新文芸坐HPにて(https://www.shin-bungeiza.com/)
告知情報2
<告知02>
12月20日(金)
ニューヨークから帰国した村本大輔の単独イベント
「Call me the GOAT at ニッショーホール」
18:00開場/18:45開演
前売:5,000円/当日:5,500円
会場:ニッショーホール(港区虎ノ門2丁目9番16号日本消防会館)
ご予約・詳細はこちら(https://live.yoshimoto.co.jp/live/live-14706/)
PROFILE 村本大輔(むらもと・だいすけ)
1980年生まれ。福井県おおい町出身。2008年に中川パラダイスとお笑いコンビ「ウーマンラッシュアワー」を結成。2013年に漫才コンクール第43回NHK上方漫才コンテスト、THE MANZAIともに優勝。AbemaTV「ABEMA Prime」を通じてニュースに触れ、興味を持ち始めたことをキッカケに、原発や沖縄基地問題、朝鮮学校などの政治・社会問題を取り上げた漫才を作り、フジテレビ系「THE MANZAI」で披露。2023年にアーティストピザを取得し、2024年より活動の拠点をアメリカに移している。