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「『スプリット』みたいな感じでお願いします!」松野友喜人監督×村重杏奈主演のイニシエーション・ホラー『悪鬼のウイルス』が1月24日より全国公開。冴え渡る松野演出を撮影現場に参加&徹底追跡取材! 取材・文:後藤健児

タイトル写真『悪鬼のウイルス』撮影現場に立つ松野友喜人監督

 松野友喜人監督の最新作『悪鬼のウイルス』が1月24日より全国公開される。松野は、日本を震撼させた犯罪者たちが時空を超えて一堂に会する『全身犯罪者』(監督だけでなく、11人の登場人物をすべて松野が演じる力作)を日本大学芸術学部の卒業制作として発表。学部長賞を受賞するも、その内容の過激さから卒業制作展では上映中止となる勲章を獲得。カナザワ映画祭2021において観客賞に輝いたことでさらに注目を集め、若干23歳にして、エクストリーム配給による長編デビュー作『オカムロさん』の監督を任された。
 都市伝説スリラー×ソードアクションの快作であり怪作でもあるこの首狩り映画は、公開前から「プロット段階で映倫が審査拒否」とうたう宣伝(のちに映倫が審査拒否疑惑を公式に否定)も手伝い、大いに話題を呼んだ。そして、このたび公開される待望の新作は、二宮敦人の同名小説『悪鬼のウイルス』を原作としたホラーアクションだ。

『悪鬼のウイルス』ポスタービジュアル

●呪われた村で巻き起こる人間と悪鬼の死闘!

 都市伝説系動画チャンネルの素材映像を撮影すべく、神隠しの噂がある旧石尾村に足を踏み入れた智樹、日名子、颯太、奈々枝。村人たちへ聞き込みを続けるうち、この異様なコミュニティの謎を知る男への接触に成功。彼の口から語られる”鬼”の存在に動揺するも真相に迫りつつあった4人だったが、彼らはそこで消息不明となってしまう。警察は、村はずれのトンネル付近に残されていたレンタカーを発見。中にあったビデオカメラには衝撃の映像が記録されていた。外から扉に錠をかけられた家々、奇病に冒され凶暴化した大人たち、そして武装した子供の集団。いったい、この村に何が起きているのか……。

阿鼻叫喚の地獄村を逃げ惑う日名子(演:村重杏奈)

●進化を続ける松野友喜人監督の娯楽性

 王道のエンターテインメントを愛する松野は『全身犯罪者』で実録犯罪者アベンジャーズをやってのけ、『オカムロさん』ではハチャメチャ香港活劇ノリを披露した。最新作でもその切れ味はさらに研ぎ澄まされ、ファウンドフッテージ型都市伝説ホラーで幕を開けた物語は、悪鬼はびこる呪われた村がバトルフィールドの魑魅魍魎と人間による攻防戦に発展(アクション監督は『オカムロさん』に続き、三元雅芸が担当)。原作が持つテーマ”大人と子供の境界”を失わず、『ザ・チャイルド』(1976年)や『ぼくらの七日間戦争』(1988年)、『バトル・ロワイアル』(2000年)といった、大人VS子供映画の名作たちを想起させる世代間闘争が描かれる。『オカムロさん』で斧やカタナの剣劇を見せてくれた松野演出は今回も新たな凶器を仕込み、人外どもを打ち倒していく。ポスト・プロダクションでも松野が相当こだわったと筆者に話してくれた、ジャンル映画ファンならニヤリの人体損壊描写(観てのお楽しみ)も期待してほしい。
 なお、詳細は伏せるが、本作では”性”の要素も物語を理解する上で重要なキーとなっている。描写としてそこが強調されているわけではない、鑑賞制限なし(PG-12指定)の低予算ジャンル作品であっても、撮影現場にインティマシーコーディネーター(担当:浅田智穂)が導入されていたことは記しておきたい。

このあと悲惨の極致としか言いようのない体験をする日名子たち

●新世代とベテランのキャスト陣が怪奇活劇に挑む

 逃げ場のない破滅の村で恐怖を味わう日名子に元「HKT48」の村重杏奈が扮し、新たなスクリーミング・クィーンを感じさせる絶叫をスクリーンに貼りつけた。日名子と互いに意識し合う智樹役には、ドラマ『夫の家庭を壊すまで』の太田将熙。ダンス&ボーカルグループ「WATWING」の桑山隆太が颯太を演じ、その身体能力の高さを駆使して、アクロバティックな動きのキャラクターを体現。さらに奈々枝役には、Netflix作品『シティーハンター』の華村あすかを配するなど、新世代の俳優たちがそろった。
 また、悪鬼たちとの絶望的な戦いに身を投じる少女マイを演じたのは、『オカムロさん』で伊澤彩織から鍛えられた吉田伶香。ホラーアクションへの出演を重ねた吉田の歴戦の勇士ぶりが本作を痛快無比かつ残酷上等な怪奇活劇たらしめている。
 若者たちの瑞々しさにあふれた画面に渋いスパイスを与えてくれるのが、ベテランの田中要次。さすがの貫禄を見せつけながら、おいしいところを持っていく。
 そして、松野監督自身もキャストとして登場。その役柄は、過去の松野映画を観てきた者なら、あれこれ考察したくなるはずだ。

ズタボロになっても悪鬼に立ち向かうマイ(演:吉田伶香)

●極秘の撮影現場に潜入して松野演出を体感!

 筆者は1日だけだが、本作の撮影に悪鬼役で参加した。2023年の錦秋、関東地方の某駅に呼び出された筆者は関係者に車で連れ去られ、山間道路を上がった先の古民家に運ばれた。そこでは、日名子と智樹が悪鬼の手から逃げ延びようとする緊迫のシーンが撮影されるところだった。自分より年上のスタッフが多い現場でも委縮せず、丁寧かつ粘り強く演出プランを説明する松野の姿勢には、これからの邦画メジャーシーンを担えるだけの強さがビシビシと感じられた。周囲のスタッフたちも自身が培った経験で新鋭監督をしっかりサポート。一致団結したチーム力の熱が現場を包み、夜間ロケに漂う冷気を消し飛ばしていた。

悪鬼のごとき形相の松野友喜人監督(実際は穏やかな好青年)

 本作に登場する悪鬼は、ゾンビのような自我のないモンスターではなく、人間がある理由から凶暴な怪人と化したもの。その日に集まった、筆者を含めた悪鬼役たちに松野からは「『スプリット』のジェームズ・マカヴォイのような感じでお願いします!」と指示が出され、その一言ですべてを理解した筆者は精いっぱいに身をよじらせて悪鬼を演じた。

筆者が所有する『悪鬼のウイルス』決定稿台本

●お化け屋敷で村重杏奈が悪鬼に囲まれる!

『悪鬼のウイルス』公開を記念し、埼玉・イオンモール川口にてお化け屋敷とのコラボイベント「お化け屋敷『悪鬼のウイルス ザ・エスケープ』」が2024年12月21日~2025年1月5日の期間中に開催。12月22日には記念イベントとして、村重杏奈が登壇。集まった筆者を含めた記者たちとの質疑に応じた。

劇中とは異なり、終始にわたって笑顔の村重杏奈

 バラエティ番組一色でやってきた村重にとって、映画出演は不安も多かったという。だが、「台本を5000万回読みました(笑)」と冗談めかしながらも真剣に挑んだことを明かし、松野に「村重さんは憑依型ですね」と言われたそうで、叫び声がうまいと褒められたことをうれしそうに述懐。同年代の松野について、現場ではラフに話してくれたと言い、松野からは「僕も皆さんにああしてほしい、こうしてほしいと話したいので、皆さんも僕に”こういうのはどうですか”と提案があれば言ってください」と伝えられたそう。村重は「思っていた映画の撮影現場とは、いい意味で違い、リラックスして臨めました」と居心地のよい松野組に感謝していた。
 イベント終わりに村重は、劇中で登場する”悪鬼”の解釈をこう語る。「原作もですし、映画もそうですけど、読み込んでもなかなか……これは何だ? と思う瞬間が多くて、いろんな人に聞いたくらい。悪鬼とは何か……映画を観なきゃわからないですね。ひとつ言えるなら、皆それぞれの”悪”があるじゃないですか、そんな感じです!」と自分なりの正直な考えを述べた。

お化け屋敷で観客を怖がらせる悪鬼たちに囲まれてもテンションMAXの村重杏奈

●ついに世へまき散らされた悪鬼のウイルス!

 公開を間近に控えた1月12日、東京・丸の内TOEIにて完成披露上映会が行われた。松野監督をはじめとしたキャスト陣が登壇し、思い思いの撮影中エピソードを語った。ここでも、皆が現場では和気あいあいと撮影に臨めたことに感謝する一幕があった。ドキュメンタリータッチのパートに関しては、太田が「(動画配信者役の)僕たちが実際にカメラを回しています」と話すとおり、ライブ感がある映像に彼らの自然体の姿が収められている。松野からは「普段どおりの皆さんでお願いします」と言われたそうで、その演出プランも彼らにとってやりやすかったようだ。
 舞台挨拶の途中から、主題歌「アイのウイルス」を担当した高嶺のなでしこも登場。アイドルグループソングでありながら、活劇にマッチした戦意が高揚する硬質な曲調の主題歌を松野は「めちゃくちゃカッコいいので、映画館の音圧で感じてほしいです!」と太鼓判を押す。

黒スーツ姿も勇ましい松野監督

 舞台挨拶後には、キャスト陣と記者たちとの囲み取材が実施された。筆者からは、吉田への質問として、『オカムロさん』で鍛えられた経験を今回どう活かしたのかとうかがった。吉田は「松野監督とは2回目なので安心できました」と回答。続けて、「前回は初めてのアクションでした。あまり筋肉がないので、全身筋肉痛で大変だったのですが、今回は同じ方たちとやれたので、次にどういう動きをすればいいのかが、前回よりも見えてきました」と『オカムロさん』での経験が役立ったことを思い返す。それを踏まえ、他のキャストたちへアクション経験者としてのアドバイスがなされ、吉田は「相手を見ること」と伝えた。自分の動きばかりに意識が注がれていた自らの経験を経て、「相手に合わせようという気持ちが大事です」と活劇の変わらぬ基本であり根幹をあらためて理解したようで、そのマインドを村重たちに伝授した。
 そして、吉田は本日お披露目した作品の出来を「とびっきりいいものができました!」と称賛していた。

ずらりそろった『悪鬼のウイルス』チーム

『悪鬼のウイルス』は、1月24日より丸の内TOEI、イオンシネマ他、全国ロードショー。本作は邦画ホラー界に新しい風を吹かせるのか、その目で確かめよう。
 また、筆者は以前『オカムロさん』公開前に松野監督とトークイベントを行っている。当時の採録が映画秘宝公式noteで公開中だ。松野演出の理解をより深めるために、こちらの記事(https://note.com/eiga_hiho/n/na00ac7798d08)もご一読いただければ幸いだ。【本文敬称略】

『悪鬼のウイルス』
出演:村重杏奈 太田将熙 桑山隆太(WATWING) 華村あすか 吉田伶香 大熊杏優 町田大和 角由紀子 鳥之海凪紗 田中要次
監督・編集:松野友喜人/脚本:山本清史 小田康平/プロデューサー:山本清史/アクション監督:三元雅芸/インティマシーコーディネーター:浅田智穂/音楽監督:Jun Goto/原作:二宮敦人「悪鬼のウイルス」(TO文庫刊)/主題歌:「アイのウイルス」高嶺のなでしこ(ビクターエンタテインメント)
2025年/日本映画/99分/スコープサイズ/5.1ch
©2025二宮敦人・TOブックス/映画『悪鬼のウイルス』製作委員会

◆松野友喜人監督作品上映情報◆

 本稿でも触れた松野監督の『全身犯罪者』および、彼が身近な友人たちと作ったインディーズ映画『帰れない二人の刑事』『帰れない二人の刑事 リターンズ』が2025年1月19日に東京・西荻シネマ準備室で上映される(『帰れない二人の刑事 リターンズ』のみ1月26日にも同場所で上映)。こちらも要チェックだ。

『帰れない二人の刑事 リターンズ』

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