“映人仲間”第十七回『録音の横田彰文さんと照明の柳田慎太郎くん』
映画『初めての女』の原作『俳人仲間』(新潮社)になぞらえて、本作の監督・小平哲兵が撮影当時のキャスト陣とスタッフ陣を振り返ります。
三流ポエムのような抽象的な説明にも
17回目は、録音の横田さんと照明の柳田くんについて振り返っていこうと思います。
二人とは今回の「初めての女」の撮影で初めて一緒に組んだスタッフだった。
横田さんは僕より幾つも歳上で、柳田くんは少し歳下だ。
しかし、この二人は現場でいつも一緒に行動していた仲良しだったように思う。
僕は少し人見知りなので、始め頃はあまり話したりはしなかったが、現場の中盤頃には合宿スタイルの撮影ということもあり、気兼ねなく話すようになっていた。
柳田くんの事でよく思い出すのは、僕の三流ポエムのような抽象的な説明にも、今ある機材で肯定的にトライしてくれたことだ。
「監督、ラストの画も妥協せずしっかり撮って下さいね」
現場での技術部としての一面もそうだが、一番はこの作品のラストシーン。
晩年の孝作が見据える山々の追撮の時に、彼が居なかったことだ。
というのも、山の天気は移り気で追撮を決定したはいいが、予算の関係やなんかで照明が来れず、彼は追撮に参加できなかった。
本撮影が終わり、追撮影になってしまい、しょぼくれている僕は、彼と抱擁を交わし「また」と彼を送り出す時に、彼は僕に「監督、ラストの画も妥協せずしっかり撮って下さいね」と言ってくれた。
ずっと山の中にいた
そして追撮が行われたのが、一ヶ月後の1月の正月あけすぐだった。
しかし、乗せられやすい私は彼のこの言葉に奮起し12月30日に一人高山に前乗りし、もう一度、撮影する山を知ろうと思う。
宿も借りずに、軽ワゴン車一台借りて追撮影までその車の中で車中泊し、風呂とご飯以外はずっと山の中にいた。(結果、そのことで少しだけ山のことを知れた気がする)
なんで、そんな事をするのかは、自分でもわからないし、一人夜中に真っ暗な山の中で年を越すのは心細かったが、撮影には色んな情熱が必要で、彼の別れの言葉は、やり抜く為の情熱そのものだったんだろう。
100回200回
録音の横田さんとの事で、よく思い出すのは体力も精神も限界に達した時。
横田さんが、現場中にガンマイク構えたまま寝落ちしていたこと 笑
老年期孝作のナレーションで何百回も、僕と横田さんと石原さんで録り直しをしたこと。
合宿中、その日の撮影が終わった後や撮休の日などを狙って、山奥や広い田んぼの中に車を停めて車内で録った。
きっと、全撮影の中で最も時間をかけれたと思う。
100回200回頃の時は、横田さんも呆れてたと思うが後半になるにつれて横田さんも演出に参加してくれ、石原さんと三人で侃侃諤諤、やり抜く事が出来た。
あの喜びは、あの空間の三人だけ
お陰様で劇中で語られる老年孝作のナレーションは、三つとも最後のOKテイクが使われている。
田んぼの畦道の車内で、全てにOKが出た瞬間。あの喜びは、あの空間の三人だけの思い出だ。
横田さんも柳田くんも、二人ともとってもとっても気持ちの良いスカッとした男だ。
上映が無事終える事が出来たなら、一緒に何とも無いことで酒でも飲みたい。
ありがとう。
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