“映人仲間”第十四回『小鳥良々 役 藤江琢磨さん』
映画『初めての女』の原作『俳人仲間』(新潮社)になぞらえて、本作の監督・小平哲兵が撮影当時のキャスト陣とスタッフ陣を振り返ります。
居心地の良い人
12回目は、小鳥良々役(オドリヨシヨシ)の藤江さんについて振り返っていきたいと思います。
藤江さんは、今回が初めてでしたが、何だか前に何度も会ったことあるような人間としての居心地の良い人。
とりあえず藤江さんといると、現場でも心癒された人は僕一人ではないはずです。
なかなか思うように進まない時でも、僕らに東京から持ってきたハリボーグミを我々に分け与えてくれ、オアシスの様な一時の安らぎをくれました。
他にも、彼は今時のフェイスなのに了解の時の言葉は「押忍」です。
ここら辺が元漁師の僕が、勝手に藤江ファンな理由かもしれません。
「良々と孝作ってボーイズラブなんですか?」
俳優としても、幾つも優れている所はありますが(少し上から目線みたいになってますが、全くそんな事はないんです)私が一番に浮かぶのは、
いつもの様に脚本の読み込みを一緒にしている時に彼が「監督、あの…良々と孝作ってボーイズラブなんですか?」と言った時です。
この言葉にはただただ敬服しました。
私は俳優さんには数え切れない程に誤読して下さいと話します。
それは脚本も書き、演出家としても何度も何度も自分がソレをし、俳優さんと真摯に向き合う為に必要で、私も私なりに万回とやっているからです。
確かにそう読めなくない!
しかし、私はくだらない固定概念にいつしか囚われて藤江さんのその回答にかすったことも、眺めた事も、思った事すらも無かったのです。
私は少し間を置き、彼と握手を交わしたのを憶えています。
確かにそう読めなくない!
でも、断言します。ボーイズラブでは全くありません。しかし、大きく感動させて頂きました。
「全身全霊を懸けてきます」
孝作と良々の最後のシーン現場は長引き…撮り始めが深夜1:00を回っていました。
残り少ない時間で現場が作られるのを車で待ちながら、藤江さんと話している時、彼は私にこう話してくれました。
「監督、僕はこのシーンで人の為…孝作の為に全身全霊を懸けてきます」
撮りきれるか焦り倒していた私は、この言葉で心の炎を燃やし、更に空回りする事になるのですが…それ以上にとても有り難かったです。
彼がこの作品の小鳥良々という人間の人生を余す事なく全うしてくれて私は深く感謝しています。
ありがとう。
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