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『英雄の証明』SNS時代を風刺した映画
先日、映画館で『英雄の証明』を見ました。
『英雄の証明』は、アスガー・ファルハディ監督の作品で、彼は、他に『別離』(11)、『セールスマン』(16)など多くの作品を制作しています。
映画の予告を見て、ストーリーに興味を惹かれました。
多くの人々がSNSをやっている現代の状況を的確に表している映画で、ソーシャルメディアの功罪を描いている作品でした。
この映画は、イランのシラーズが舞台です。
シラーズは古都で、イラン南西部ファールス州の州都です。標高は1500メートルの高地に位置しています。
アケメネス朝ペルシアの首都であったペルセポリス遺跡が近くにあり、映画の冒頭で移る遺跡は、アケメネス朝の王たちの墓であるナクシェ・ロスタム遺跡です。2つの遺跡は、シラーズ郊外にあります。
また、2011年に世界遺産として、登録されたエラム庭園が有名です。
以下、映画のあらすじについて簡単に述べます。
あらすじには一部、内容のネタバレがあります。
(『英雄の証明』公式パンフレットを参考にして記述しています。)
映画のあらすじ
主人公の元看板職人のラヒム・ソルタニは、3年前に借金が返せなかったため、投獄されました。
イランでは、借金の保証人制度があります。
多額のお金を借りるときには保証人が必要になり、もし債務者が返済できなくなった場合は保証人が代わりに返済を行います。
最終的には債務者は、借入金の全額と保証人が負担した利息を返済する必要があります。
債務者が返済しない場合、保証人は相手を法廷で訴えることができます。
懲役刑が課せられた場合、債務者は刑務所に行かなければなりません。
ラヒムの借金を保証人のバーラムが代わりに返済しましたが、その後、ラヒムが返さなかったため、バーラムが訴え、ラヒムは収監されることになりました。
ラヒムが義理の兄のバーラムから借りている1億5000万トマンは、約400万円です。150トマンが約4円にあたります。
現在も服役しているラヒムが2日間の休暇を得て、一時的に釈放されていました。
数日前にラヒムの婚約者であったファルコンデが拾った偶然拾ったカバンの中に、17枚の金貨が入っていました。2人で借金が返済できると喜びました。
しかし、金貨を貴金属店で鑑定してもらったところ借金の総額1億5000万トマンの半額の価値しかありませんでした。
他人の金貨を自分のものにすることに、ためらいを感じたラヒムは、金貨を返すために落とし物の張り紙をお店に貼り、そこに刑務所の電話番号を書きました。
その後、ラヒムのもとに、金貨の落とし主の女性から電話がかかってきます。彼女は姉夫婦の家にやってきて、金貨とバッグを受け取り、タクシーで帰っていきました。
この映画では、ラヒムが行った善行が、思いがけない反応を起こし、その流れにラヒムたちは巻き込まれていきます。
刑務所の幹部たちから褒められ、そして、マスコミからも注目を集めます。
しかし、マスコミによって、悪徳債権者だと扱われたバーラムは、ラヒムに対しての態度を変えませんでした。
しかし、この美談が作り話ではないかという噂話を聞き、それまでの流れが変わり始めます。
映画はこの場面から、ラヒムを取り巻く状況が悪い方向に進み始めていきます。
バーラムの娘役のナザニンは、ファルハディ監督の娘で、物語でも重要な役割を果たします。
悪い流れのまま、彼は、美談の英雄から噓つきの詐欺師へと転落していきます。
そして、どのような結末を迎えるかは映画を見てみてください。
映画の感想
この映画は多くの人々の善意、悪意を感じる映画でした。映画の初めでは、バーラムはラヒムを強く憎んでいる人物として描かれていますが、彼もラヒムの借金を返すために大変な苦労をしている人物だと分かります。
そのため、次第に彼の行動も理解できるようになります。
ラヒムは初めは穏やかな人物です。しかし、次第に状況が悪くなり追いつめられていき、思いがけない行動をしてしまいます。そのことでより状況が悪くなっていきます。
この作品では、多くの人々が善人、悪人ではなく、グレーの人物として描かれていて、その描写も現実の世界に近い感じでした。
ファルハディ監督がインタビューで話されていた、多義性を感じる映画でした。