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流行語で見る中国バブル崩壊の歴史(後)

この記事は流行語で見る中国バブル崩壊の歴史(中)の続きです。データと流行語から、現在の出来事の分析と将来の可能性を考えています。


すでに「失われた〇〇年」に入っている可能性

私の持論ですが、中国はすでに中国版「失われた〇〇年」に入っている可能性が高いと思います。日本版「失われた30年」の定義は「低成長・デフレ」が特徴ですが、中国はマクロ経済で見ると力強く、一見すると低成長とは思えません(*GDPの数字自体に各種のツッコミもありますが、ここでは触れません)。

しかしながら私が「失われた〇〇年」に入っていると思う背景は、若者失業率の高さと、流行語に現れている消費者行動にあります。もともと中国は工場などの製造業が主流で、大卒者が志望するホワイトカラーの産業育成が追い付いておらず、逆にITやゲーム産業に対する締め付けを行っていました。そこに2019年のコロナショックが襲い掛かりました。

出典元:https://www.mizuho-rt.co.jp/publication/2022/research_0017.html

コロナショックでは各地で大規模なロックダウンが行われ、多くの企業が生き残りのために2020年2月に大規模なリストラを行いました。このリストラの影響を受け、若者失業率も卒業時期の9月に大きなピークを形成しました。

この少し前、2019年3月に「随心配」がマクドナルドから発売されました。これは赤いエリアと白いエリアの商品を一つづつ好きに選べるにあるコンボで、低価格かつコスパが良いことからインターネットで穷鬼套餐(貧乏セット)と呼ばれ、瞬く間に全国で流行しました。

穷鬼套餐は単語として定着している

この「随心配」を皮切りにファーストフード店の低価格の商品が消費者に意識されることになり、競合他社も20元以下の商品を取り揃えるようになりました。ひと昔前はセット価格は30元台が当たり前で、それ以下の商品は単品しかありませんでしたが、今では20元以下のセットも当たり前に提供されています。

廉価で満腹になる貧乏セットの表

しばらく小康状態を続けていた中国経済でしたが、2022年にロックダウンショックが再び襲い掛かります。当時の経済よりコロナ封じ込めを優先した政策の結果は高失業率になって現れ、当時の卒業生数増もあり若者失業率は更に高い値になりました。この高若者失業率の傾向は現在まで続いています。

二度目の就職困難期

こうしたなか、低価格競争はファーストフードだけではなく様々な業界に及ぶようになりました。たとえば自動車業界では2022年から平均売価が下がり、売り上げ量が上がるという現象が起こっています。

(左)自動車の平均売価、(右)自動車の売り上げ量

私は今回の自動車販売台数の減少は2008年のアメリカで発生した、リーマンショックの影響による売り上げ減少に似ていると思っています。

リーマンショック前後のアメリカの自動車生産台数

普通なら不況では企業側は生産調整を行い、リストラ等の経営効率化を行う、政府は低金利政策を行い景気回復を誘導するのが普通なのですが、中国では補助金の投入による低価格競争が行われています。

こうした物の値段が下がるという環境は、消費者の意識を変化させました。流行語で見る中国バブル崩壊の歴史(中)で解説した、特种兵旅游(コスパ重視の弾丸旅行)や平替(手頃な価格の代替品)という言葉は、高失業率で貯蓄を優先したいという心理状態と、デフレが進む環境の両方を表しています。私は、現在の20代は2020年から今までの高失業率を目の当たりにして経験しており、購買活動に対する深層心理は一生、根強く残り続けると思います。

日本のハンバーガーの価格は長らく低迷しました。この原因として高失業率の時代を経験した、節約志向の高い消費者の存在がありました。

日本のハンバーガー価格の推移

以上の内容から、私は中国の消費者意識はすでに「失われた〇〇年」の3~5年目に入っていると思います。そして若者失業率が高い状況と値下げ競争が続けば続くほど、「失われた〇〇年」の〇〇年は長引くと考えています。

外国(含む日本)への移住が増える可能性

私は今後も日本を含めた、中国から外国への移住が増えると思っています。ここでは日本を例に説明します。多く報道されているように、コロナ禍のあと日本への移住をする中国人が増え続けています。

在留中国人の統計

この背景となる考え方は 流行語で見る中国バブル崩壊の歴史(中)の ”润” で解説をしています。受験競争や就職難が続いている中国では、海外への移住を目指す人が増えています。実際に移住している年齢層を見ると、コロナ前の2019年に比べて2023年は40代・50代の割合が増加しています。

2019年と2023年の在日中国人の年齢分布

私は、これは将来的な受験者数の増加と、不況の長期化による就職難を見越した親世代が、外国で子女を教育させようとしている姿の表れだと思っています。現在の大学受験者数はまだピークへの通過点に過ぎず、2032年に向け大学受験者数は年々増加します。

大学受験者数は2032年まで過酷な競争が続く

おそらく30代で結婚し、今は幼稚園・小学生低学年の子どもを持つ親が積極的に海外へ移住していると思います。今回は子女の受験の面だけ考慮しましたが、他にも自身や親の介護のことを考えて移住する人もいる可能性があります。私は、この傾向は少なくとも2030年までは続くと思います。

いま、日本では中国人のマナーや態度に対する議論が盛んになっていますが、私はこのような状況では否が応でも日本に移住する中国人が増え続けると予想しています。個人的には移住者が増える前提の政策をすぐに立てた方がより建設的だと思います。

例えば今は中国独自の電子マネー(Weixin, Alipay)等が中国人内部で使われることにより金の流れが不透明になっています。これを日本経済へ組み込むことがGDP向上に不可欠です。また、健康保険のタダ乗りに近い行為は対策をしないと今後も横行するでしょう。白タクやヤミ民泊、認可の無いガイド行為等、在住中国人による中国人へのルールを無視した業態は厳格に取り締まらないと蔓延します。

それと同時に企業は中国人向けの将来の中国での勤務を見越した採用だったり、中国人向けのサービスを提供することで商機が生まれる可能性があります。個人的には移民の増加による環境の変化を先んじて見つけ、それを利用することのできる企業が今後は伸びる可能性が高いと思っています。


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上海在住のえいちゃん
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