【わたしの随筆#4】リスク回避と機会損失
1、リスク回避
一つ一つの診断名について勉強して、今出ている症状が、その診断名だからそうなるというのはわかります。
でも、よくよく観察していると、何らかの動作ができない、あるいは苦手だったとして、
それは本当にその診断名が原因なのか?
それとも、ただ単に経験させてもらえなかったからなのか?
の見分けがつきにくいことがあります。
(※ここから先は個人的見解ですので、ご参考程度でお願いします。)
例えば、
「口から物を食べる」という動作について。
脳性麻痺などの運動機能障がいを抱えるお子さんの多くは、嚥下に問題を抱えており、口から固形物を食べることは、窒息、誤嚥(誤嚥性肺炎)などのリスクが高く、まずは「経管栄養」もしくは「胃瘻」で嚥下を伴うことなく栄養を摂取することになります。
窒息や誤嚥は命に関わりますから、もちろんお子さんの状態により一人ひとり違うとはいえ、リスク回避を優先することは医学的に正しいことです。
一方、嚥下という動作は、口腔や首まわりの筋肉を使ったひとつの「運動」であり、やらなければ獲得することはできず、使わない筋肉は機能を低下させ、さらに嚥下が困難となっていきます。
リスクはある。しかし、口から食べて飲み込むという経験を経ない場合、嚥下能力が勝手に向上することはない。この矛盾に対して、リスクを取って、口から食べ物を摂るようにしましょうと言える医療機関は、ほぼ無いでしょう。
リスク回避は、医学的に正しい。
でも、その正しさの中に、患者を救うというリスク回避というよりは、立場上の「責任回避」が含まれていることにも、留意しておく必要があります。
2、機会損失
実際の現場では、良くも悪くも医療機関の指示に反して口から食べさせていたお子さんが、今も経管栄養も胃瘻もなく食べられているケースもあります。(決して推奨はしません)
嚥下にリスクがあるのは、障がいによるものかもしれない。でも、経管栄養から胃瘻に至り、結局、生涯に渡って口から食べ物を食べられないのは、一度もその経験をさせてもらえなかった「機会損失」にも一因があるのではないか。
嚥下に関しては、リスクヘッジが難しく、誤れば命に関わることなのでそう簡単ではありませんが、他の様々な場面で似たようなことが起こっているのではないか?
と感じるのです。
医療ケアに関することでなくとも、様々な支援サービスの中で、助けるためのはずの支援が、かえってその子が学習する機会を奪ってしまっていないか。
座位保持椅子ひとつを取っても、何でもかんでも身体全体を支えてあげる必要はありません。
自分で支えられるところは自分の力で支えることを学ばなくてはなりません。学べばできたはずのことを、学ぶ機会を奪われたことにより、結果できなくなる。
これは障がいの有無に関係なく、人間は使わない筋肉は弱り、使わない脳のネットワークは切断されていきます。
繰り返しになりますが子どもたちは、一人ひとり状態が違います。成長、発達にも個人差があります。
100%、必要な支援やケアもあります。
でも、チャレンジしなければ前に進まないこともあります。
身体的なことだけでなく、社会性に関しても同じです。
例えば、身体は不自由でも知的に問題がない場合、身体の不自由さによって知的に学習できる機会が制限され、かえって自尊心や健全な精神の発達に悪影響を与えてしまうことも、あるのではないか。
本当に必要な支援は提供しつつ、機会さえあれば学習できるはずのところは、どんどん伸ばしていく。
その見極めが、小児障がい児に対峙するときの難しさの一つです。
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