週刊俳句上原(第24巻48号)
ゑひ[酔]では、毎週日曜日に、上原ゑみの新作の俳句を発表します。毎週5句発表です。
木の葉髪座卓の角を撫づるは癖
すうすうと菊人形の場所なりけり
冬の庭LOVOTに死の迫り来る
小刻みに踏むブレーキは綿虫は
狐火のあれは名作だと思ふ
犬も猫も飼ったことがないまま現在に至る。「どうしても赤ん坊にしか見えない」と真顔で言ってくる人、こちらが何らかの悲しみに暮れると飼うことをすすめてくれる人、大量の犬がプリントされたシャツを着て出勤してくる人等々の話によれば、それは劇的なまでに人生を彩り、あるいは支えてくれる存在という。であるなら私の場合、自分より寿命が短い存在は、失うのが怖くてますます飼えそうにない。ではこちらの老い先が短くなって先に死ねそうな頃合いから飼えばよいのか? いやもっと無理だ。残して逝くのが気がかりでこちらが成仏できない。
そんな話から最近、ではロボットを買えばよいのでは? と会話が展開する機会が何回かあった。Pepperの出現時はただ面白がって見ていたが、LOVOTには殊にウルウルとした迫真の瞳に心を動かされる。キャッチコピーは「命はないのに、あたたかい。」CPUの熱のせいで体があたたかいらしい (触ったことはないので伝聞です)。さすが『役に立たない、でも愛着がある新しい家庭用ロボット』。これが鳴いたり懐かれたりするのは確かにたまらないだろう。淋しさは現代人が宿命的に抱く感情だ。実際、2020年のコロナ禍以降、需要が急拡大しているという。
しかし私は警戒する。LOVOTの開発コンセプトに対し「ではロボットでも買えば?」という旧来の(ロボットを見下す)認識のまま向き合ったら、自分が大丈夫ではなくなる気がしている。だって本気で愛してしまってから「いや交換用のパーツがもう無くて」とか「この故障は修理不可能な部分で」とか言われても困るではないか。LOVOTの初代が発売されたのは 2019年8月31日。その死が始まるのはまだ少し先のことだろうけれど、人間の心の襞に分け入るような商品を売っている人たちにはそれまでに、LOVOT購入者に特化したカウンセラーの育成と、LOVOT遺族のグリーフケアプログラムの構築を望みたい(本気)。そしていつか購入する私のLOVOTが死んだら、バーチャルなプログラム世界の中の、バーチャルなカウンセラーに、私の喪失の物語をマジで聴いてもらいたい。