
週刊俳句ゑひ(第24巻42号)
ゑひ[酔]では、毎週日曜日に、上原ゑみの新作の俳句を発表します。毎週5句発表です。
赤い羽根夕刊フジを縦に折り
柿握る夜の手相はぐちやぐちやに
篝火と柿と失敗しない弓
井戸の底より仰ぎ見るカシオペア
われ酸化せり鳥威しひらひらと
むかしむかしのラッシュ時の電車には、新聞を美しく降り畳みながら読む人がいた。その人はまず新聞を縦に折り、任意の片側を読み終えるとひっくり返して残りの面を読む。1面を読了すると次はその縦長の折り目を活かして反対側へ折り返し2面めの片側へ、終わるとひっくり返して残りの半面へ、これを繰り返すうちに新聞紙は蛇腹折りの体裁を成すことになる。人体の幅よりも狭いその縦長の幅以内の動きは、混雑する車内において人様のパーソナルスペースを侵すことがなく、互いの不快さを最小限に抑える効果があるのだ。私は彼らの気遣いに感心するというよりは、音を立てず風も起こさず印字で指も汚さずにそれをやってのける器用な手つきが面白く、まさに折り紙の国の民である彼らが賜ったその指先をしげしげと観察してしまうのだった。
夕刊フジは駅売り専門のタブロイド紙として1969年に創刊された。ロゴや見出しのベースカラーがオレンジだったことからキャッチコピーは「オレンジ色の憎い奴」。エロくてセンセーショナルな紙面が一家団欒と相容れないからか、帰宅途中のサラリーマンは電車の網棚に置いて下車し、それをまた誰かが取って読む。一億総中流社会の連帯感が社内にも車内にも満ち満ちていた頃の話だ。そんな夕刊フジが来年1月をもって終刊するという。先頃そのニュースが流れた時、全盛期の夕刊フジで書きまくっていたという初老の知人のことを思い出した。「奴」に赤い羽根は、今でもかなり似合わない。
【余談】
オレンジ色は、海洋の遭難者を探す際いちばん目につくので見つけやすいと関係者から聞いたことがある。海で助かりたかったらウェアのカラーはオレンジ色がお勧めです。