週刊俳句上原(第24巻49号)
ゑひ[酔]では、毎週日曜日に、上原ゑみの新作の俳句を発表します。毎週5句発表です。
石蕗の花家に二階を足す工事
風邪悪化して藍に刺す白き糸
毛布の模様が体に悪さうで
風邪声の家族は春日部を目指し
外套のほかはひしやげたダンボール
埼玉県春日部市・東武鉄道の春日部駅西口にある「イトーヨーカドー春日部店」が11月24日に閉店した。店舗の周囲は閉店を惜しむ人々が群衆化し、閉店時間の19時にシャッターが閉まり始めると同時に大きな拍手、「ありがとう!」などのかけ声も上がってさすがにグっときた…と、ふだんならそこまで感傷的にはならない友人(春日部市在住)が、それを伝えるためだけの電話をかけてきたことに驚いたのだった。
盛り上がりの理由は、漫画でアニメ化もされている『クレヨンしんちゃん』の野原一家が利用するスーパーマーケット「サトーココノカドー」のモデルが同店だったことによる。私は特にクレヨンしんちゃんのファンというわけではないものの、ある時期からこの春日部の友人にLINEする時だけクレヨンしんちゃんのスタンプを送るようになり、その際の自身が必ずホンワカした多幸感に満たされることに気が付いた。今ごろそんな形でしんちゃんの威力を知るとは遅すぎ恐縮なのだが、愛着も湧いたところで自然、地元民の気持ちへと思いは至る。
イトーヨーカドー春日部店の開店は1972年。はじめは現在の建物の向かい側に店舗を構えて、1996年に現在の場所へ移転した。漫画『クレヨンしんちゃん』の連載開始は1990年であるから、サトーココノカドーは移転前の店舗から想起されたということになる 。実はその移転前の店舗がテナントとして入っていたのは、父と娘のお家騒動で有名になってしまった大塚家具が、創業(1969年)の地で所有していた賃貸ビルである。そのあとは iDC大塚家具春日部店が居抜きで活用していたが、2018年に娘社長(※争いの勝者側)が創業地ごとまとめて売却してしまった。大塚家具については、負けたままでたまるかとばかりに父と長男が同じ春日部駅の東口側に「匠大塚」を設立して顧客も流出するなど、ドラマチック過ぎる話のキリがないので経過を追うのはここまでとするが、ある時代を象徴する2つの(対照的な)業態が、ひとつは発祥し、ひとつは根を下ろし、そして稀代の漫画キャラクターまで誕生した春日部とはいったい。
人口が右肩下がりの最中なのは高齢者が多いことによると思われるし、となれば独居の高齢者は逆に増えているだろう。そんなデータから見える未来は明るいとは言い難い。とはいえ私は、5月の春日部大凧あげ祭りに行って土手一面に広がる大勢の家族連れに混じり半日見物していたことがあるものだから、体感の記憶はつい明るいのだけれど。都心の地価やマンション売買価格の高騰そして賃貸料の値上がりと、春日部の過疎化予報は “矛盾” している。会員制高級家具店や旧来型総合スーパーの撤退と、イトーヨーカドー春日部店の閉店に集う群衆も “矛盾” している。そんな現代の混沌をかいくぐり、郊外を舞台とする漫画やアニメの主人公がなお普遍的であり続けることは『サザエさん』の時代よりも遥かに難しいはずだ。
件の友人はその日、現場にいた見知らぬ家族連れと言葉を交わした。彼らは “サトーココノカドー” の閉店を悲しむ幼い息子のため、その閉店に立ち合うために、近畿地方の某県から遠路を運転してやって来たという。つくづくと凄い野原しんのすけなのである。
※「クレヨンしんちゃん25周年記念プロジェクト」の企画のひとつとして2017年7月19日に出現した「サトーココノカドー春日部店」の写真を拝見できます↓
https://p-prom.com/feature/?p=16950