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ゑひ[酔]では、毎週日曜日に、上原ゑみの新作の俳句を発表します。毎週5句発表です。

白鳥の傷ごと浸ける真水かな
冷凍の子鼠ほどけゆく寒月
目配せをせり冬眠の森を踏み
枯蓮のざらざらと鳴る電話口
がに股の兎よ遠くまで行ける

 
 お父上が獣医というその人の実家の庭には、水道水を貯めた盥(たらい)の中に、傷を負った一羽の白鳥が浮かんでいた。いかに大きな盥だとしても白鳥のサイズ感からすれば可動域は狭くじっとしているしかないはずで、実際その白鳥は傷が癒えるまでの日々、静かに盥に浮いていたそうだ。わずかな量でも水は水、庭の草や土の上よりはマシなのか庭の金盥に大人しく浮かぶ白鳥…そのシュールな絵を脳内に描けば気の毒に思うよりも先にクスリとしてしまう。他にも、怪我を負ったフクロウがベランダに、療養中の動物某が実家のそこかしこに、その人が活き活きと再現する様子は獣医さんの家の常態…ではなく、野生動物の治療をすることができるのは相応の資格を持つ獣医師だけで、お父上はその認定医なのである。ほかには冷凍庫に療養中の猛禽類の餌として冷凍の子鼠が常備されていたとか、解凍された子鼠を若い看護師さんはどうしても触れなかったとか、耳慣れない話をたくさん聞いたのでそんな今週の俳句。
 ウサギはペットとして飼っている人もいるから、都会においてもイタチやキツネよりは室内遭遇率が高い。ビジュアルに恵まれ、ふわふわの毛並みや長い耳、それも垂れ耳だったりするので愛でられる。しかしある飼い主によればウサギには食欲と性欲しかない、つまりさほど情緒的ではないそうで、確かに近づいて観察すると眼光は鋭く、気に添わない構われ方を拒絶する時の反応は猛々しく、イメージと実体は乖離する。私は動物好きというより、対象との意志疎通のしづらさに面白味を感じる質だ。怒って脚を踏み鳴らすウサギの映像なら飽きずに観ていられる。フォルムの可愛らしさよりも跳躍力を見極めたいし、本能の予測不能な表出を楽しみたい。
 俳句は実景を写し取るのが王道だが、動物と触れ合う機会は少なく、そこを押して想像の俳句を作りたくなる。今週は枯蓮の句を除く4句が想望俳句である。「がに股の兎」は間接的にせよ写実のつもりだが、「遠くまで行ける」は観念ですよね…嫌いじゃないんですけどね。まぁ句が弱いのは確かなので、反省してから次へ行きます!

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