人は褒められると嬉しい。必ず良い面はある。そしてそれは人生を変えていくー そんなことを教えてくれる絵本 |『エドワルド せかいで いちばん おぞましい おとこのこ』 を紹介します。
絵本紹介士のkokoroです。 “絵本紹介士”とはその字の通り、絵本を紹介する活動をしています。
幼い頃から読書が好きで、大学は児童文学科で学びました。またここに至るまで、挫折を経て心のことに関心を寄せ続けてきました。
ある時から絵本の楽しさに改めて気づき、多くの絵本を読んできました。
絵本は子どもが読むもの、と思われがちですが、大人の心にこそ響きます。
楽しくなり、癒され、深く心が動き、考えさせられる。
そんな風に心惹きつけられた絵本を1冊ずつ紹介しています。
実際にその絵本を手に取って頂き、思いを共有してもらえたら、こんな嬉しいことはありません。
1・絵本のストーリー
さて、このお話は愉快な絵のタッチ、話の面白さに惹かれて軽く読めます。
―だけど、この絵本は大きな大切なことを伝えてくれている。
さて、このエドワルド、何が「おぞましい」かと言えば、ものを蹴っ飛ばし、やかましく、人にいじわるし、動物を追いかけまわし、部屋もちらかし放題。顔を洗うのも歯を磨くのも嫌い。
とうとう大人たちに言われます。
せかいじゅうの だれよりも、おぞましい こどもじゃないか!
『エドワルド せかいで いちばん おぞましい おとこのこ』(ジョン・バーニンガム作 千葉 茂樹 訳 ほるぷ出版 引用
と。ところが、
ある時、たまたまエドワルドが蹴っ飛ばした植木鉢が土の上に落ちた。
すると通りがかった人に「花壇を作るとはすばらしい」と褒められます。
エドワルドは早速、花を育てる。とても上手く、みなから庭の手入れを頼まれるようになります。
またある時、いぬにわざと水をぶっかけた。
すると飼い主の人にきれいになったと喜ばれた。
エドワルドはそれからペットの世話をするようになります。
またある時は窓からなんでもぽいぽいと捨てていました。すると、そこをトラックが。それは寄付を集めているトラックだった。「寄付してくれてありがとう」とまた喜ばれる。
するとエドワルドの部屋はとてもきれいになり、見習いなさい、とまで言われる。
ある時は汚くしていたせいでハエに追いかけられ川に落ちたところ、助けてくれた人がお風呂に入れてくれ、洋服もきれいにしてくれました。
学校へ行くときれいにしていると、皆の前で褒められた。
そのあとも小さい子を押すと、その拍子に上からライトが落ちてきて、その子は助かった。またまたエドワルドは褒められる。そして小さい子の人気者になった。
ある時は、めちゃくちゃ大きな声でわめいてみました。するとその声に驚いたライオンはびっくりした。そのライオンは逃亡中だった。おかげで連れ戻せてサーカスの人は大感謝。
エドワルドはそのサーカスのお手伝いもするように。
そんなエドワルドはもはや「おぞましいおとこのこ」ではなく、皆に好かれる男の子になっのです。
2・この絵本が伝えたいメッセージ
この絵本が伝えたいメッセージとは
①どんな人でも良い面はある
そう、エドワルドにだってあったのです。大きな声を出せるというのは元気な証拠だし、エネルギーに溢れている。何かを蹴っ飛ばすのも、もしかしてサッカーをしたらすごく上手かもしれない。
いつも「やかましい」とか「らんぼう」とか言われていたエドワルドは、はじめて人に(偶然だったけど)「すばらしいね」「ありがとう」と言われて (あれ?いつもと違うぞ。人にいつも悪い子だと言われるとイライラしてもっと悪い子になってやるって思うけど、これは違う。なんだ、この気持ちは。嫌な気持ちにならない、むしろ、嬉しいじゃないか!!)と思ったはずです。
だからこそ、人の庭づくりを手伝ったり、小さい子の面倒を見たりして、ますます感謝される。結構、自分が上手にこなせることがわかってくる、そして嬉しい。そうやって良い循環に入っていった。
②人の良い面を見ることの大切さ
そう、このお話で一番のキーパーソンは初めにエドワルドを褒めた男性。「花壇を作るのかい?素晴らしい」と言った人です。この人はきっと、日ごろから、人の良い面を見るクセがついている人。だから、自然に声を掛けられた。「勘違いの偶然」だったとしても。
人はついつい足りない面を見がちです。欠点を見がち。そして指摘し、注意してしまう。もちろん、その人のためになるならば、注意も必要でしょう。でも、いつもガミガミ言われていたらどうでしょうか。その人のことなんて何も聞きたくなくなるのでは?反対にいつも認めてくれて、褒めてくれる人には少しばかり注意されても、素直に聞き入れられるのではないでしょうか。
3・この絵本をおすすめする理由
①絵の魅力
この絵本は何といっても絵が素敵。なんともいえない魅力があります。“おぞましい”エドワルドが描かれていても、何となく可愛い。憎めない。
ぜひこの魅力を味わってほしいです。
②訳のすばらしさ
“おぞましい”という言葉について
エドワルドというとっても悪い“おぞましい”男の子が主人公。
この“おぞましい”という言葉、原題では「horriblest」といい、「恐ろしい・ものすごい・身の毛もよだつ・ぞっとするほどいやな・とてもひどい・残酷な・不愉快な・下品な・無礼な・最低な・・」と言った本当に嫌な意味なのですが、「おぞましい」と訳されているところになんだか少し面白い気がします。
「男の子」と「おぞましい」が結びつくとは思えないところにおかしみがある。これが「せかいで いちばん げひんな おとこのこ」でも「せかいで いちばん ふゆかいな おとこのこ」だったら、「なんだか嫌な子の話なんだな」と思うけれど「せかいで いちばん おぞましい おとこのこ」と聞くと「えっ?どんなおとこのこなの?」となんだか興味がわいてくるし、「どんなところが“おぞましい”の?」と知りたくなってしまう。
この訳者の方の言葉選びが素晴らしいと感じます。
他の文章も一篇の詩のようで、リズムよく読める。この訳がよりエドワルドを完全な悪い子にせず、どこか可愛い男の子にしているような気さえします。
4・この絵本から一番惹かれたところ
私にも息子がいる(今は大学生)。
小さい時は常に走り回っていた。
時々、めちゃくちゃ大きな金切り声をあげていました。
いつも汗だくになっていて、泥だらけでした。歯磨きも抑えつけてしていたし、髪の毛を洗うのもすごく嫌がっていた。
全て同じとは言えないけど、共通点がたくさんありました。
だから、エドワルドはすべての男の子、いや、女の子だってこういう子はいる。
そういう面からみれば、子どもの原型。
だから、子どもを持つお父さん、お母さんなら、このエドワルドが芯から憎めず、可愛いと思ってしまうのでは?私はそうでした。
そういう角度から見たら、エドワルド、どうなるの?ずっとこんな感じ?とハラハラしながら読みました。
だから、最後は「エドワルドの良さ」を発揮でき、皆に喜ばれる子どもになり、なんだか私も安心しました。
そしてこの絵本の秀逸なところは、教訓的にエドワルドが誰かに諭されて、改心して、すばらしい子になった訳じゃない。
ちょっとやんちゃしていたら人から「すばらしい、いいね」と言われ(誤解され)、いつのまにか、それが本当になり、自分も変わっていった、というところにすごく面白いし、リアルなものを感じます。
物語の勧善懲悪や教訓的なことって、現実世界になると、なかなかできない。
だけど、自分も知らない間にしていることが人の役に立ついいことだったら?
それは続けやすい。取り組みやすい。自分も無理なくできる。
何より褒められると嬉しい(何度も言うけれども)。これは大人だって同じ。それが小さな自信になり、「自分はこんなこともできる、あんなこともできる、そしてそれが人に喜ばれる、嬉しい」そう感じてしまったら、もう、人が嫌がることなんてしたくなくなります。
まあ、エドワルドの場合は完璧にいい子になるのではなく、今でも時々らんぼうでやかましく、汚いなど“おぞましい”部分はあるのですが。
これも人間の自然な姿。ここに作者の温かい人間に対しての目線を感じます。
欠点もある。それもいいんだよ、それを越えて君は素晴らしいんだから。
そこに大いなる伸び伸びした作者の世界観があります。
また気負わず、軽いタッチで、少しユーモア・ナンセンスさも織り交ぜながら伝えてくれるところに惹かれました。
5・まとめ
この絵本、いかがでしょうか?読みたくなったことと思います。
ぜひぜひ、お子さんいる人はお子さんと。大人でも、もちろん、読んでみてください。
きっと、楽しく、そして温かく、ちょっぴり可笑しい気持ちになれます。
そして自然な形で、楽しく大切なことー人には必ず良い面がある・良い面を見ようーということを学べます。
ぜひ、読んでみてください!
最後に作家、ジョン・バーニンガムの略歴を
ジョン・バーニンガム(1936―2019)
イギリスの絵本作家。ケイト・グリーナウェイ賞など数々の受賞歴がある。多くの作品が日本で出版されている。
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