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会いたい人に会えない切なさを描く絵本 |『ふたりの箱』を紹介します。
絵本紹介士のkokoroです。幼い頃から読書が好きで、大学は児童文学科で学びました。同時に、心のこと、スピリチュアルなことにも、とても関心を持っています。このnoteでは、そういう観点から心惹かれる絵本を選び、お話の中の気付きやメッセージを読み解いています。
私は“絵本紹介士”として色んな絵本を紹介しています。
その絵本を紹介することで、どういうところが心がラクになるのかなどを伝え、そして実際に読んでもらって、落ち込んでいる人や辛い気持ちにいる人が、心がラクになったり、元気や勇気を出してもらえることを目指しています。
今日の絵本を選んだ訳は、「現実に寄り添ってくれる」からです。
この絵本はわかりやすく、早く解決する内容のものではありません。
でも・・現実ってそうではありませんか?
困ったことが起こった→はい、すぐに解決しました!
ということばかりではない、いやそういうことばかりじゃないことが「生きる」ということじゃないでしょうか。
そういう「現実」を淡々と描いています。
だけど―その先には「救い」がある。
それがまた心を癒してくれます。
では、これから紹介しましょう。
今日の絵本
『ふたりの箱』作・絵 クロード・K・デュボア 訳 小川 糸 ポプラ社 出版
1・絵本のあらすじ
この絵本は父と娘ジュリーとの心の交流について描かれています。
<はじまり>
ある日、お父さんが出ていきました。それは何故なのか、理由は書いてありません。
ただ、お父さんのせいで、お母さんが悲しんだと書いてあります。
娘のジュリーがその時に「お父さんなんて大嫌い」と言いました。
お父さんはその言葉をきいてショックを受けます。
<そして>
その気持ちがあまりに辛いためお父さんは「心の箱」にジュリーの存在を閉じ込めました。
はい、ここで「心の箱」って何?って思われる方もいらっしゃるでしょう。
絵本では頭を抱えているお父さんの足元に箱があり、中に写真?手紙?のようなものが入っています。文字にはなっていませんが、多分ジュリーとの写真やジュリーからもらった手紙のようなものが入っているのでしょう。
「心の箱」とは、それに蓋をして、自分の気持ちもそこに入れたというイメージでしょうか。
ジュリーもお父さんを「心の箱」に閉じ込めます。
絵本の中でもジュリーが寝ているベットの下に同じような箱が置いてあります。
ジュリーも自分のお父さんに対する「怒り・混乱・悲しみ、そして会いたい気持ち」をそこに入れました。
<人生は続く>
それでも、人生は続く。お父さんは仕事へ、ジュリーも学校へそれぞれ生活を続けていきます。
でも、なんだか楽しくなく、心も弾まない。
お父さんもジュリーも今度は「心の箱」を外に出してしまいました。
どんどん、気持ちが閉ざされ、ささくれだってきます。
笑うことも泣くこともなくなってくる。
そんな中でも季節は廻り、1年経ちました。
今も単調な毎日を送るふたり。
<変化・再会>
ある時、ばったり、二人は町で出会いました!
その時は話さなかったものの、出会ってしまってからは二人に感情が動きはじめました。
お互いをかけがえのないものと思い出していたのです。お父さんとジュリーの心の箱が開きました。
そしてお父さんが思い切ってジュリーに電話をかけ、二人は再会しました。
と、そんなお話です。
日常、生きていると割り切れることばかりではない、思いがけずショックなこと・悲しいことが起こることがある、そういう時に人はどう過ごしていくか、が描かれた絵本。絵本のイメージから少し遠い絵本、だからこそ私たちのリアルな日々に寄り添ってくれるところがある。
2・この絵本から伝えたいこと
①突然の別れ
色んな理由で人が別れてしまうことがある。特に子どもは大人の事情の下、納得いかない状況に置かれる場合がある。
どうしようもない状況の中、心が追い付かない、どうしたらいいの?となる時もある。
そんな時、考えないように「心の箱」に入れることもあるかもしれません。
だけど、感情は正直で、日常が楽しいと思えなくなり、動かなくなる。
それでも、どうすることもできない・・
そういう苦しい状態がずっと描かれています。
人生はパッと解決できることばかりではない。苦しくても不条理な思いをしても、それでも何とかその気持ちを抑えて生きていかないといけない時もある。
そういう時、人はどう過ごしていくのか、白でもなく黒でもない、日常はそういう状態の積み重ね。それは妥協でもない、あきらめでもない、前を向くために何とか暮らしていく、生きていく、そういう状態の人に寄り添ってくれる情景が沢山描かれています。
②「心の箱」とは
自分ではどうしようもないことが起こったとき、二人はお互いの存在を「心の箱」に入れました。
それで何とか、日常の暮らしを送っていく。だけど、心の底は辛くて悲しい。
でも、「心の箱」に入れたおかげで何とか過ごせる。
この「心の箱」。先ほど説明した通り、その人との思い出の写真や手紙などをしまっておく箱。今なら携帯の中かもしれません。
それを見ると思い出してしまう。だから、そこに自分の気持ちを載せてしまっておく。
見えないところにやっておく。
それは、どうにか日常を送っていくために一旦しまっておく心の場所。
とりあえずは考えないようにする場所。
あまりポジティブなイメージではありませんが、それでも、長い人生、生きていく間にはどうしようもない辛いこともある、しんどいこともある、そんな時、潰されてしまわないようにそういう心の場所に一旦入れる「避難場所」というものがあることはいいことかもしれません。
そのおかげで日常を送ることができる。
私自身も「心の箱」に入れるとはとても良い考え方だと思いました。
私もついつい思い出してしまう嫌なこと、解決できないことがあります。
そういうことを思い出すたびに嫌な気持ちになっていました。
だけど・・それを「心の箱」に入れるとしたら。
無くなりはしない。でも、今はそれを見ないようにする。
少し、気持ちがラクになります。今をなんとか過ごしていけます。
③再会の喜び
でも、何かのきっかけで、それが解決するようなこともあります。
そんな時、一気に箱が開いて心が解放される。
だから、このお話の中で最後に二人が会えた場面はその分、見ている方もとても嬉しくなります。心が温かくなる。
その場面までの二人の切なさ、どうしようもない思いが描かれているからこそ、二人の再会場面はより輝きます。
これからはまた会えるようになるんだね、と読んでいる方も嬉しい。ほっとする。
1年も会えなかったからこそ、お互いの大切さに気付ける。心の箱が開いて、本当の自分の気持ちを解放し、心の底からの望みを叶えることができた。
その気持ちを読んでいる方も追体験できる素晴らしい場面です。
3・まとめ
このお話はとても考えさせられます。
現実の世界では、何かが起こったとき、すぐに解決、答えがもらえる訳ではない。
自分が誤解されることだってある。
そんな時、弁解もできない状況だってある。
反対の場合もしかり。
その時にむやみに相手に近づいて、無理矢理話し合っても余計悪い方向に行くこともある。
そんな時、その気持ちをまずは抑えて、日常生活を送っていくことが必要になってくることもあるでしょう。
そんな場面、皆さんも少なからず経験されていることと思います。
家族や、パートナー、仕事仲間、友人などの周りの人とのことでも。
時間が解決していく、という感覚でしょうか。
そんな中、ふっと偶然か、はたまた意識的にか、関係が戻ることだってある。
それは、それまでの時間があったからこそ。お互い「心の箱」にその思いをしまっていたからこそ、その「空白」が良い方へ解決していく。
そんな風に思います。
また、このコロナ下、誰もが予測しなかったことが日々ずっと起こっている。。
会いたい人には会えない状況もある。
それでも生活は続く、人生は続いていく。
そんな時、辛いことは、一旦「心の箱」に入れてなんとか過ごしていく。
いつか、会える日も来る、いつか解決する時も来る、
そういう希望を持ちながら。
この絵本からそういうことも感じることができます。救いを心に持つことができます。
また絵がほのぼのしていて、可愛くて、内容が少し切ない分、救われます。
この深く、素敵な絵本の著者、クロード・K・デュボアさんは、1960年ベルギー生まれ。美術学校に学び、絵本作家・イラストレーターとして活躍されています。
訳の文章もとても素敵で心に迫ります。
訳は小川糸さん。小川糸さんは『食堂かたつむり』という映画にもなった原作の小説をはじめ、多くの小説を書かれています。その小説が世界各国の言葉で出版されています。また作詞・翻訳・音楽活動もされている多彩な小説家さんです。
この絵本の魅力は実際に読んでもらって本当にわかると思うので、ぜひ読んでみてください。おすすめです。