【メルマガ絵本沼】第17号|-「飼い猫絵本」三選-『タンゲくん』『ねえだっこして』『うちのねこ』
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今回のお題は「飼い猫絵本」です。
古今東西「猫絵本」はたくさんありますが、その中でさらに分けていくと「飼い猫絵本」というジャンルがあって、これが私の琴線にもっとも触れるのでした。
今回はその中から3冊の絵本を紹介します。
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-「飼い猫絵本」というジャンル-『タンゲくん』『ねえだっこして』『うちのねこ』
■「猫絵本」はめっぽう多い
私は猫を一匹飼っている。
親元に居た頃は犬をずっと飼っていたので、犬とヒト、猫とヒト、それぞれの距離感の違いがよくわかる。
猫は一日の25%くらいをベッドの隙間と押し入れで過ごし、気づけば隣に座っていたり、と思ったらキャットタワーから外を眺めていたり、玄関行ってドアをずっと睨んでいたりと、その気分屋ぶりと距離感は、私にとってとても心地よいものだ。
そう感じるのは、歳をとったせいもあるのかもしれない。
それにしても世に猫好きは多い。
テレビでは日々猫の動画が流れ、YouTubeでは大量の猫動画が投稿され、キャットフードを売る小売店も昔よりもあきらかに増えている。
ご多分に漏れず「猫絵本」もめっぽう多い。
大人気絵本『100万回生きたねこ』(佐野洋子/講談社)や、古典名作『100まんびきのねこ』(ワンダ・ガアグ/福音館書店)、赤ちゃん版も出ている『ノンタン』(キヨノサチコ/偕成社)、マンガタッチの『11ぴきのねこ』(馬場のぼる/こぐま社)、大迫力の『ネコヅメのよる』(町田尚子/WAVE出版)などなど、「猫絵本」は古今東西で刊行されている。
そして「猫絵本」(および動物を題材にした絵本)というのは、切り口や擬人化ぐあいや作風が幅広いく、その中でさらに分けることができる。
そのひとつが「飼い猫絵本」というジャンルで、愛猫家の私の琴線にもっとも触れるのだった。
■「飼い猫絵本」とは?
「飼い猫絵本」が特に刺さるようになったのは今の猫を飼いだしてからで、特に『うちのねこ』(高橋和枝/2021/アリス館)を読んだ時にそのことを強く感じた。
この絵本の設定はとても興味深い。
さて、ここで本稿における「飼い猫絵本」の定義をざっくりまとめておくと、物語の設定に、
猫に擬人化(ほぼ)無し
猫にはヒトの飼い主がいる
猫と飼い主の関係性が描かれている
の3つの要素が含まれていることとする。
で、前述のとおり世に「猫絵本」は山ほどあるけど、この「飼い猫絵本」設定にしぼると、数がグッと減ってくる。
特に「猫と飼い主の関係性」が描かれているものが意外に少ない。
そんな中、『うちのねこ』以外でパっと思い浮かんだのが下記の2作品だった。
ひとつめは猫絵本の傑作『タンゲくん』(片山健/1992/福音館書店)。
タンゲくんがどういう子なのか一発でイメージできるすばらしい表1。
この子はきっと野生っぽい匂いがして、抱き心地はよく、頭を撫でたら引っかかれるのだろう、などと妄想がふくらむ。
そしてもうひとつは田中清代さんの『ねえだっこして』(竹下文子/2004/金の星社)で、こちらも猫が飼い主にどんな感情を抱いているのかが絵とタイトルだけで伝わってくる秀逸な表1。
切ない顔するよなあ、この子は。
■3作品の特徴
で、この「飼い猫絵本」3作品の設定を7つの視点から眺めてみたのが下記の図。
同じジャンルなのにずいぶん違うことがわかる。
まず『タンゲくん』から眺めていくと、
1.猫の名前が明確
2.飼い主は女の子
3.飼い主の視点で描かれている
が他の作品との大きな違いになっている。
この物語は猫の物語ではあるが、小さな女の子の成長譚にもなっている。
タンゲくんは登場の仕方からして大胆であり、風貌も名前もとにかく濃い。
そしていくつかの場面で、彼は飼い猫の体ではあるが、実際のところは自立した外猫であることが描かれる。
彼はなぜ人間の家に居るのだろうか?とも思う。
といって飼い主宅の居心地も悪いものでは決してない。
一方、女の子は自分が飼い主であること(主従でいえば主であること)を強く意識している。
タンゲくんを心配し、自分がしっかり面倒みなければと思い、感情も揺れる。
そしてラスト、この猫と女の子の物語は意外な形で幕を閉じる。
そこには「猫と飼い主の関係性」が見事に描かれていて、猫ってのはしたたかで、そこがまた猫っぽく、そのことが猫を飼う身にスっと刺さる読後感なのだった。
ビバ猫!
つぎに『ねえだっこして』は、
2.猫にとって飼い主は「お母さん」である
6.物語猫視点で描かれている
7.ある1日の物語である
という特徴が挙げられる。
この「ある1日」を迎えるまでに、この子には飼い主との関係性の変遷があった。
それはつまり、この子はかつて赤ん坊のポジションに居た(と思っていた)のに、今はそうではないということで、この要素がラストの、あのとても優しい時間へとつながっていく。
私はたまに絵を見ずに文章だけで絵本読むのだけど、本作でそれをするとあることに気がつく。
それはこの絵本のテーマは「猫と飼い主の関係性」以上に、「すべての長兄・長女が経験するであろう、あの理不尽」が横たわっているということ。
長兄・長女は最初王子・姫の扱いを受けるけど、ある日いきなり下の子にその立場を奪われる。
下の子ができてうれしくはある、でもなぜこの扱いになるのか…。
私も長兄なのでよくわかるのだった(ノД`)
本作はその尖ったテーマをやわらかくし、くわえて、メッセージもきちんと伝えることに成功している。
■『うちのねこ』の独自性
で、2020年代に入って刊行された「飼い猫絵本」が『うちのねこ』だ。
私が今の猫を飼いだしたのもこの年。
最初に頁をめくった瞬間、私はまず、「あ、この子は家猫なんだ」と思った。
ということで本書の特徴はなんと言っても、
3.飼い主が一人であること
4.家猫であること
のふたつに尽きる。
ウチの猫も家猫で、ベランダすら怖がって出ない。
これについては「世界のひろさを見ることができずかわいそうかもしれない」と思うこともあるが、ただ、その分せまい世界の中での自由さと、安全さと飼い主からの愛を満喫している、とも言える。
で、内容にすこし触れると、本書は一匹の大人の保護猫が、ひとりの大人の女性(飼い主)に、心をひらくまでの一年を描くという繊細なものだ。
この「限られた空間」と「1対1の関係」という設定。
これがあるからリアルさが生まれ、ラストの邂逅のカタルシスがある。
ウチの猫も保護猫だけど、子猫だったのですぐにヒトに懐いただけに、読んでいてより強くカタルシスを感じたのだった。
■「飼い猫絵本」から見えてくるもの
今回取り上げた3冊を並べると、
刊行年は左から2021年→2004年→1992年と、30年の時間が流れている。
小説や映画が時代を切り取ったものであるように、「飼い猫絵本」からもヒトの居住環境や、猫の生息領域、そして猫と飼い主との距離感など、その時代の飼い猫事情が見えてくる。
タンゲくんの生息領域はひろいが、外猫の平均寿命は家猫よりも短い。
外猫はタフでなければ生きていけない。
飼い主はそれを心配するが、敢えて拘束はしない。
一方、家猫は飼い主がつくる安全圏内に住んでいるが、他の猫との交流や自然と戯れることは、外猫に比べるべくもなく少ない。
『うちのねこ』を指し、茗荷谷の絵本専門店てんしん書房の店主さんは、「令和のタンゲくん」と表現していた。
正鵠を射る指摘。
昔は保護猫の譲渡会なんてなかった。
ヒトの猫の扱い方というのは、ひょっとしたら興味深い社会学的なテーマなのかもしれない。
みたいなことを考えながら、家猫の背中をなでる7月最後の熱帯夜。
(了)
バックナンバーはnoteにあります。
次回は2023年8月28日(月)配信予定です。
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