最高の授業ー米大学の底力を知る
ジェームズ・マーシャルの絵本と一緒に保管していたアメリカの教科書がこちら。
Bernice E. Cullinan & Lee Galda, Literature and the Child, 3rd ed. (Harcourt Brace College Publishers, 1994)
500ページ以上あるし表紙が頑丈でやたら重い。アメリカでは教科書を持ち帰らずに学校に置いたままにするというのも、この厚みなら納得。
授業で開いたのはほんの数回で、毎回(1回あたり2コマ分の授業形態)の予習として50ページほど読んでいくことを課された。その他にも課題続出で息つく暇もなかったが、人生で一番勉強した(させられた!?)時期だったと思う。以下、春学期(クォーター制)中の課題リスト⬇️
❶ Book Review : 児童書の書評。参考文献も含む。
まったくの門外漢だったので、有名なエリック・カールの作品を片っ端から読んで挑んだ。この時に『はらぺこあおむし』が3部作のうちの1作目だと初めて知る。
❷ A Poetry Display: テーマを決めて子ども向けの詩を選び、フォントやレイアウトを工夫して詩集を作る(2次元)とともに、立体的に(3次元)提示する。
食べることをテーマに選び、布のランチバッグに詩を書いた。ちなみに、先生ウケは良かったが、3次元ディスプレイで苦心惨憺していたクラスメイト達は「せこい手法を使ったな。おばさんは得だな」という表情をしていた。
❸ The Best of Spring: その年に出版されたばかりの新刊からベスト10を選んでディスカッションする。
このために書店員さんと顔馴染みになるほど近隣書店に通い詰めた。児童書がある2階の床に座り込んで読んでいても怒られないので助かったが、後に閉店に追い込まれて残念。
❹ Thematic Brochures: 各自テーマを設定してパンフレットを作成し、クラス全員分のコピーを提出。
学部の4年生と大学院生の合同授業だったが、アメリカの学生の独創性に触れて感動した。私はエコロジーをテーマに選んだ。提出物は全て文法や綴りの間違いが認められなかったが、このパンフレットは特に一文字のミスも許されないので苦労した。選書から要約、コメント、デザイン、レイアウト、印刷と一連の流れを体験し、とても思い出深い。
❺ Personal Book Selections: 自分にとっての児童書ベスト50冊を新旧織り交ぜて選び、書籍情報、要約、コメントを含めてカード化する。(PC推奨)
MacBookを持参していたので、HyperCardで作成した。このために書店のほか、複数の図書館にも足を運んだが、児童書担当司書さんたちのプロ意識の高さに感服した。当時まだ日本に絵本専門士の資格はなかったので、その必要性を感じた。
❻Oral Presentation: クラス全員の前でストーリーテリングをする。
このプレゼンが授業の総仕上げになるため、クラスメイトの力の入れようは凄かった。アフリカ系アメリカ人学生は民族衣装を身に纏って大道具持参で現れ、演劇部は迫真に迫る演技で物語った。出版社に就職希望の彼女は就活用の自作絵本を提示してのプレゼンで魅了した。私は日本文化のアピールを兼ねて『舌切り雀』を選び、おじいさんがご馳走をもてなされる場面でおもちゃのお寿司セットを活用。当時3歳だった長男に聞き手になってもらって練習を重ねたのが功を奏して「せこいおばさん評価」を返上した。
回を重ねる毎に脱落者が出て最終的には半分以下になった厳しいクラスだったが、確実に力が身に付くという意味では日本の大学の授業との差異を考えざるを得なかった。最終日は自己評価を提出するとともに、授業評価を記入した。用紙の配布は教員ではなくアシスタントがおこない、教員は退室しなければならない。学生による評価が教員の勤務評定に直結するだけに厳正に実施されており、それによって授業の質がより高められているのは間違いない。学生の多くが図書館で夜遅くまで勉強しているのも日本とは異なり、やがてこれが国力の違いとなるのだろうと思った。四半世紀前のボストン昔話。
※表紙画像の右から3冊の書名リスト
📘Caroline Feller Bauer, This Way to Books (The H. W. Wilson Co., 1983)
📙Caroline Feller Bauer, Celebrations (The H. W. Wilson Co., 1985)
📘Caroline Feller Bauer, Read for the Fun of It (The H. W. Wilson Co., 1992)