山田太一『男たちの旅路』(里山社、2017年)
「男たちの旅路」シリーズは、自分が中高生の頃の放映のため記憶が曖昧で後にDVDを買い求めたりもしたが、シリーズ全貌を確認できたのは里山社さんより脚本集が出てからだ。
まだ若かった私は、吉岡司令補のような上司がいたらいいとか、水谷豊演じるガードマンが面白いとかの反応がせいぜいだったと思う。おまけに、なぜ「男たちの旅路」で「男たち」に限定するのか、などと浅はかな見方しかできていなかった。でも今ならわかる。これは特攻隊の生き残り(いわゆる「特攻くずれ」)の戦後の生きざまを描いているため、「男たちの旅路」でしかあり得なかったのだ。
昨今「特攻隊」と聞いて理解できる人はどれくらいいるのだろう。知覧特攻平和会館HPのオンラインミュージアムからは、帰りの燃料をもたずに敵に体当たりすることを使命として出撃した青年たちの遺書や遺品を垣間見ることができる。敗戦が濃厚となっても続けられた特攻隊の平均年齢はおよそ21歳。彼らはなぜ死に急がなければならなかったのだろうか。多くの仲間が死んでいった中、生きながらえた特攻隊員の戦後もまた、複雑な思いを秘めたものであったに違いない。
ドラマの中で戦後をガードマンとして生きた吉岡司令補役を演じた鶴田浩二さんは、私の伯父と同期で特攻隊員だった。終戦がもう少し遅かったら、おふたりとも生きてはおられなかったと思う。戦後を生きながらも早逝した伯父の葬儀には、(故)鶴田さんも参列してくださったという。
今の若い方々は、この脚本集から何を感じてくださるだろうか。死んでいった仲間たちを忘れず頑なに信念を貫く男性の姿に、戦争が遺した爪痕を感じてほしいと願うのは、もはや無理筋かもしれない。しかし戦争に限らず、高齢化社会、障がい者問題、貧困等、さまざまな社会問題を投げかける優れた脚本が、このまま忘れ去られては本当にもったいないと思う。むしろ若い方にこそ、手に取って読んでいただけたらと願ってやまない。
【追記】
伝吉さまが当記事を素敵なマガジンに追加してくださいました。重ね重ね、本当にありがとうございます。新しい戦前が益々現実味を帯びてきた今、ぜひもう一度、特攻隊についてお考えいただければ幸いです。