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虫目線

虫の声を聴きながら、遅ればせながら夏休みの課題に取り組んでいます。
久露見庵さまの推薦図書が、目にやさしくて読みやすい上に秀逸です。

それぞれの本の詳細は
以下の書名をクリックしますと
久露見庵さまの丁寧なご紹介記事をご覧いただけます。


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手塚治虫著 『ガラスの地球を救え』(光文社、1996年)

幼い頃、『鉄腕アトム』や『ジャングル大帝』のアニメにお世話になりながら、作者の手塚治虫氏がどんな意図をもって制作されていたのか、この本を読むまで何も知りませんでした。

これまでずいぶん未来社会をマンガに描いてきましたが、じつはたいへん迷惑していることがあります。というのはぼくの代表作と言われる『鉄腕アトム』が、未来の世界は技術革新によって繁栄し、幸福を生むというビジョンを掲げているように思われていることです。
「アトム」は、そんなテーマで描いたわけではありません。自然や人間性を置き忘れて、ひたすら進歩のみをめざして突っ走る科学技術が、どんなに深い亀裂や歪みを社会にもたらし、差別を生み、人間や生命あるものを無惨に傷つけていくかをも描いたつもりです。
 ロボット工学やバイオテクノロジーなど先端の科学技術が暴走すれば、どんなことになるか、幸せのための技術が人類滅亡の引き金ともなりかねない、いや現になりつつあることをテーマにしているのです。

『ガラスの地球を救え』「アトムの哀しみ」より 26-27頁

その他、日本が戦意高揚のためにナチス同様、映画を利用したことや、子供たちに批判力を養う教育環境を整えるべきであること。情報過多の時代に消化不良を起こさないために情報リテラシーが重要であること、環境汚染の問題など、先見の明と子供達への愛情に満ちた洞察に驚かされました。

虫プロ手塚治虫長編3部作(手塚プロダクション・虫プロダクション)なぜか家にある🤔
手塚治虫『手塚治虫傑作選「戦争と日本人」』(祥伝社新書、2017年)読了

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レイチェル・カーソン著 『センス・オブ・ワンダー』
上遠恵子訳、川内倫子写真(新潮社、2021年)

※ハードカバーは1996年の出版

高校1年の夏休みの宿題で『沈黙の春』を読んだ時、殺虫剤のDDTがいかに自然の生態系を壊すか、これでもかと繰り返す著者の危機意識の高さに圧倒されたものでした。その点、こちらは子供のうちから自然に触れて瑞々しい感性を養うことの大切さが写真とともに綴られており、親しみやすい1冊となっています。

 わたしは、子どもにとっても、どのようにして子どもを教育すべきか頭をなやませている親にとっても、「知る」ことは「感じる」ことの半分も重要ではないと固く信じています。
 子どもたちがであう事実のひとつひとつが、やがて知識や知恵を生み出す種子だとしたら、さまざまな情緒やゆたかな感受性は、この趣旨をはぐくむ肥沃ひよくな土壌です。幼い子ども時代は、この土壌を耕すときです。
 美しいものを美しいと感じる感覚、新しいものや未知なものにふれたときの感激、思いやり、あわれみ、賛嘆や愛情などのさまざまな形の感情がひとたびよびさまされると、次はその対象となるものについてもっとよく知りたいと思うようになります。そのようにして見つけだした知識は、しっかりと身につきます。

『センス・オブ・ワンダー』36頁

私自身、子育て期に唯一こだわったのが自然との触れ合いだったので、深い共感を覚えました。

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熊田千佳慕著 『熊田千佳慕の言葉 私は虫である』(求龍堂、2010年)

例えば子供に接する時にしゃがんで子供の目線に合わせるように、熊田千佳慕氏は虫の目線で描いておられるのだなぁと思いながら読み進めていたのですが、いやいや、虫目線どころか虫と一体化している!と気づきました。これは自然と一体化する座禅の境地と似ているのではないかと思ったところ、あぁ、やっぱり!

野草のスケッチをするときは座禅を組んでやるんです。そうしますとそのものと一体になれますのでね、すると向こうから、そこはこう描くんだよ、こう描くんだよって教えてくれるような時もあります。僕はそういうことをやるのがとても楽しいんです。

『熊田千佳慕の言葉 私は虫である』82頁

座禅も無我の境地といわれてますね。

草や木は自分の美しさを誇示するために、
美しい色や形を見せているのではない。
だから私はその無心の美しさに何より心が惹かれるのである。

『熊田千佳慕の言葉 私は虫である』100頁

また、自然に向ける目線は愛に満ちています。

虫や花たちは今日を悔やんだり、明日を思い悩んだりせず、今の瞬間だけを懸命に生きています。
その生涯を精一杯まっとうしようと、最後まで命を燃やし続けるのです。
そのことに気がついたら、花や葉が枯れ落ちて土に還っていく姿まで美しいと感じるようになりました。
自然は自らの美しさを知らないから美しく、奥ゆかしい。
その美しいという感覚は、愛がなければ持つことができません。

『熊田千佳慕の言葉 私は虫である』99頁

自然と自分との境界線をあえて越えておられるようです。

チューリップの散りぎわの美しさを描いている。
美しさの絶頂から崩れ落ちるその瞬間。
形あるものはかならず崩れるもの。
崩れる瞬間の美しさをとどめようと絵心は走る。
人の散りぎわも又このように美しくありたいもの。
我もまた。

『熊田千佳慕の言葉 私は虫である』108頁

98歳まで生涯現役で描き続けた熊田千佳慕氏の散り際もまた、この上なく美しかったにちがいないと思うのです。


以上、自分用の覚え書きのため、雑な紹介で恐縮です。
本の内容詳細は、ぜひこちらをクリックしてどうぞ⬇️

📘手塚治虫著 『ガラスの地球を救え』(光文社、1996年)

📗レイチェル・カーソン著 『センス・オブ・ワンダー』
上遠恵子訳、川内倫子写真(新潮社、2021年)

※ハードカバーは1996年の出版

📙熊田千佳慕著 『熊田千佳慕の言葉 私は虫である』(求龍堂、2010年)


これらの貴重な書籍をご紹介くださった
久露見庵さまが撮られるお写真もまた、自然への愛に溢れています。
いつもありがとうございます。