絵本のある風景:小さなYちゃんの場合
保育園の夕暮れ時、お部屋で家族のお迎えを待つ子どもたち。一日中忙しく体を動かし、笑ったり、怒ったり、考えたり。日が暮れて訪れる少し静かなこの時に、子どもたちの様子を見ていると、絵本と子どもの距離がぐっと近くなることに気づきます。どの保育士の膝も絵本を抱えてやって来る子どもたちで満席なのです。
ある日、私のところへ2歳になったばかりのYちゃんがお気に入りの一冊を手に「よんで。」と言ってやってきました。差し出されたのは北欧の民話『三びきのやぎのがらがらどん』です。「いいよ。」と、Yちゃんを膝に抱え読み始めました。Yちゃんは一番小さいやぎが橋を渡るところまで来ると、一番はじめのページにある、草をくわえたやぎの絵に戻り「おはな。」と言いました。このページのやぎが橋を渡ろうとしている一番小さいやぎと同じやぎだと気が付いたのです。くわえている草は、確かに花のように見えます。この『おはな』をくわえた小さいやぎは、薄いレモン色の背景の中にとても楽しげに描かれています。この絵の明るい印象がYちゃんの心の中に深く残っていたのでしょう。途中、何度もこのページに戻りながら、時間をかけて最後まで読みました。家族の中で一番小さいYちゃんは、恐ろしいトロルが待つ谷川の橋を一番先に渡って行った、小さいやぎの勇姿に心惹かれるものがあったのかもしれません。
絵本のお話に浸り、その世界を楽しむ子どもたちの様子を見ていると、子どもは本能的にお話を語ってもらうのが好きなのだと感じます。私にとってもまだ多くを語らないYちゃんの心に触れた幸せな時間となりました。