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絵本のある風景:しあわせな記憶

 子どもの頃、押入れに入って遊ぶのが好きでした。押入れの布団の隙間に潜り込み、内側から少し扉を開け、「お母さーん。もっちゃんはどこでしょう。」と隣の部屋で家事をしている母に呼びかけます。すると母は見当がついていても、「どこかなあ。こっちで声がしたんだけど。」と言いながらやってきて、机の下や棚の間を探し、「いないなあ。」と言いながら隣の部屋へ戻ります。何度かこれを繰り返し、ついに私がこらえきれずに出ていくか、母が「ここかな?」と押入れの扉を開けると、この遊びは終わるのでした。

 幼い私は遊びの中で、母はいつも私を探し、必ず見つけてくれる人だということを確かめていたのかもしれません。そんな母に安心し、満たされて子ども時代を過ごせたことは、私の人生を支えるしあわせな記憶となっています。

 先日、保育園の子どもたちに『ぼく にげちゃうよ』を読みました。想像力豊かにいろいろな姿になって「にげちゃうよ。」と言う子うさぎと、それに合わせて姿を変え「おいかけますよ。」と答える母さんうさぎのやりとりに、「私はどこでしょう。」と母に呼びかけた幼い日を思い出しました。お話を聞いた子どもたちは、「もう一回読んで。」とこの本を持って来るようになりました。遊びの中で「追いかけてね。」と誘われることも増えました。その度に私は、あの頃の母のように、そして、ユーモアたっぷりの母さんうさぎのように、リクエストにこたえることにしています。

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