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カピバラジョーとトランペット
夜明け前の川辺で、カピバラのジョーは今日も静かにトランペットを手に取った。水面に腰までつかり、ゆっくりと呼吸を整える。
人間のミュージシャンたちは、彼の練習方法を一様に不思議がった。しかし、ジョーにとって水中での演奏は、最も自然な表現方法だった。幼い頃から慣れ親しんだ水の中で、体は自然と力を抜き、呼吸は深く、ゆったりと流れる。
デビュー当初、評論家たちは彼の演奏を「遅すぎる」と批判した。確かに、ジョーの演奏は普通のジャズマンと比べると、テンポは遅かった。フレーズとフレーズの間には、たっぷりと間が置かれる。しかし、その「間」は決して空虚ではなかった。
「音楽は、川の流れのようなものさ」とジョーは若いミュージシャンたちに語る。「急いで流れる部分もあれば、ゆっくりと深く淀む部分もある。大切なのは、その流れが自然であること」
ある夜、有名なジャズクラブでのセッション中、突然の停電が起きた。パニックになる観客たち。そんな中、ジョーは静かにトランペットを吹き始めた。暗闇の中、彼の柔らかな音色が、まるで月明かりのように場を照らしていく。
その夜の演奏は、後に伝説として語り継がれることとなった。評論家たちは「水のように透明で、深い演奏」と絶賛した。ジョーは相変わらず照れ臭そうに笑う。今日も夜明けの川辺で、彼は水に浮かびながら、新しい音色を探している。
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