おにぎりくんとフリスビー
―お猿の温泉はあったかそう?―
寒い冬の日のこと。道端で小さなプラカードを持って立っているおにぎりくんがいました。プラカードには「フリスビーを飛ばしてください」と書いてあります。
通りかかった人々は、歩みを止めては首をかしげ、また歩き始めます。そんな中、やさしそうな青年が立ち止まってくれました。
「フリスビーを飛ばしてほしいの?」 「はい!」おにぎりくんは嬉しそうに答えました。「あそこのポストの上まで行きますので、そこめがけて投げていただけませんか?」
青年は不思議そうな顔をしましたが、おにぎりくんの説明を聞いて微笑みました。
「ぼくは特別なおにぎりなんです。おにぎりの中のお米の粘着力と、具の回転する力、そして、ほんの少しのおにぎりの魔法があれば、鳩さんたちと同じくらいの高さまで飛ぶことができるんです!」
説明を聞いた青年は、おにぎりくんの願い通り、ポストめがけてフリスビーを投げました。おにぎりくんは軽やかにジャンプ。フリスビーに乗ると、ググッと空へ舞い上がりました。
「わぁ、本当に飛んでる!」青年の驚いた声が下から聞こえてきます。
おにぎりくんは空から町を見渡しました。「寒いなぁ...どこかあったかいところはないかな」
すると、もくもくと湯気の立ち上る温泉を見つけました。「あそこなら温まれそう!」
温泉には野生のお猿さんたちがのんびりと浸かっています。「こんにちは!」とおにぎりくんが声をかけると、お猿さんたちはキョロキョロと辺りを見回しました。
「おや?おいしそうな匂いがするぞ...」 一匹のお猿さんがおにぎりくんの方をじっと見つめ始めました。
「あ、これはまずい!」おにぎりくんは危機を感じました。でも、その時にはもう遅かったのです。温泉からの湯気で、おにぎりくんの体がどんどん柔らかくなっていきます。
「あ゛ー!おかゆになっちゃう!」慌てふためくおにぎりくん。なんとかフリスビーに飛び乗り、温泉から離れることができました。
「危なかった...湯気のあるところは、ぼくには向いてないみたい」
ちょうどその時、温泉の湯を汲みに来ていたおばあさんと出会いました。「フリスビーを投げていただけませんか?」とお願いすると、おばあさんは快く引き受けてくれました。
フリスビーに乗って再び空に浮かぶおにぎりくん。「さて、今度はどこに行こうかな?」
冬の空は、まだまだ冷たい風が吹いていました。でも、おにぎりくんの心は、たくさんの人との出会いで、ポカポカと温かくなっていたのでした。
おしまい