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やぎになった夜

今回の作品は不思議な扉が現れる「おやすみ、クマさん」の続編です。よかったら前編もご覧ください。


会議室の窓の外は、もう暗くなっていた。

「では山田さん、この企画について何か改善案はありますか?」
部長に問われて、私の頭の中は真っ白になった。
言葉が出てこない。
考えはあるのに、うまく伝えられない。

今日も一人、いつもの居酒屋。
ビールの泡を眺めながら、今日の自分の言葉足らずを思い返す。
35年生きてきて、まだこんなことか。

帰り道、見慣れない路地に迷い込んだ。
薄暗い蛍光灯の下に、古びた自動販売機が一台。
その横に小さな扉があった。

『あなたの好きな動物になりましょう。一時間 500円』

人懐っこいやぎになりたいな。
そう思って扉をくぐると、世界が変わった。

公園には、たくさんの人とやぎがいた。
人気者のやぎたちは、人の輪の中心にいる。
近づきたい気持ちはあるのに、体が思うように動かない。
やぎになっても、私は私なんだな。

ベンチの隅でぼんやりしていると、
小さな男の子が近づいてきた。
何も言わずに、隣に座る。
私も黙ったまま、空を見上げた。

男の子は私の気持ちがわかるのかな。
子供ってオトナだよな。

気がついたら朝。
夢だったのかと思いながら会社へ向かう。

今日から新入社員の教育を任された。
その子は、夢で会った男の子が大きくなったみたいだった。
特に会話はしなくても、自分でコツコツ仕事をこなしていく。

私がたどたどしく説明したことも、
黙って聞いて、自分なりに解釈して形にしていく。
なんだか気持ちが通じている。
不思議な感じがした。

夕暮れの会議室。 新入社員が企画書を見せてくれた。
私は少し微笑んで、
「いい案だね」
そっと言った。


いかがでしたでしょうか?

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