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[短編小説]孤狼の軌跡1〜今を見失った狼の物語〜

深い森の中、一匹の若い狼が生きていました。彼の名前はツキ。
ツキは他の狼たちと違って、獲物を追いかけることが得意ではありませんでした。

「なぜ僕は、みんなのように上手く獲物を捕まえられないんだろう」

ツキは毎日、先輩の狼たちの足跡を追いかけては、彼らの狩りの跡を見つめていました。
雪の上に残された足跡を追って、どんな経路で獲物に近づいたのか、どこで方向を変えたのか、一つ一つ確認していきます。

「こうすれば、きっと僕も上手くなれる」

そう信じて、ツキは毎日足跡を追い続けました。しかし、実際に狩りをする時になると、いつも失敗してしまいます。
ある日、老いた狼のシロが、ツキに声をかけました。

「お前は常に過去の足跡ばかり見ているな」

「はい...でも、先輩たちのように上手くなりたいんです」

「だが、獲物は過去の足跡の中にはいない。獲物は今、目の前にいるのだ」
シロの言葉に、ツキは初めて気がつきました。

自分は常に先輩たちの足跡を追いかけることに夢中で、目の前の獲物の動きを見ていなかったのです。
その日から、ツキは獲物を追う時、地面に残された足跡ではなく、目の前の獲物の動きを見るようになりました。

獲物が走る速さ、方向を変える時の癖、息遣い...
そうして、ツキは自分なりの狩りの方法を見つけていきました。
時が経ち、ツキは若い狼たちから「狩りの名手」と呼ばれるようになりました。

ツキは若い狼たちに教えます。
「私の足跡を追うだけでは、誰も名手にはなれない。獲物は常に前にいるのだから」


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