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冬さんと春くんのロマンス

「また見つけたんだ」冬は、白い息を漏らしながら、こっそりと春に話しかけた。

「冬さん!また新しい場所ですか?」春の目が輝く。

「ああ、山の裏側の谷間にね。氷柱が作る音楽が聴けるんだ。春くんの好きな小鳥たちの歌とは違うけど、これはこれで素敵な音色なんだよ」

春は懐かしそうに微笑んだ。「あの時も、そうでしたよね。私が初めて担当した年に、冬さんが連れて行ってくれた氷の洞窟...」

「覚えているかい?君が持ってきた早春の風で、氷柱が振動して、思いがけない演奏会になったんだ」

「ええ!私たち、その音に合わせて、こっそり踊りましたよね」春は少し恥ずかしそうに笑う。「夏さんには絶対に言えない思い出です」

「君と夏さんは仲がいいみたいだけど、私たちにしかわからない秘密がたくさんあるね」冬は目を細めた。「たとえば、あの結晶文字とか」

「あ!」春は顔を赤らめた。「私たちだけの暗号ですよね。氷の結晶の形に想いを込めて伝え合うなんて...他の季節には絶対に真似できません」

「そうそう。今日も君に伝えたいことがあってね」冬はそっと手のひらを開いた。そこには、六角形の中心に小さな花の形が浮かぶ、特別な霜の結晶があった。

「まあ...」春はその意味を理解して、やわらかく微笑んだ。「私も冬さんに。ほら」
春が差し出した手には、まだ蕾のような形の雪の結晶が。これは彼らの間だけで通じる、特別な返事だった。

「相変わらずロマンチストだね、私たち」冬は静かに笑った。

「でも、誰にも気づかれていませんよ」春も楽しそうに続けた。「みんな、私たちのことを『ただの季節の引き継ぎ』だと思っているだけで」

「それがいいんじゃないかな。この二人だけの世界が、特別なんだから」

春は頷いた。「ねえ、今度はどこに連れて行ってくれますか?まだまだ知らない場所がありそうですね」

「ふふ、次は面白いものを見せてあげられると思うよ。ただし、また君の温かい風と、私の冷たい風が出会わないとね」

「楽しみです。私たちの出会いが作る、誰も知らない風景を、また見られますように」

彼らは人知れず、毎年この時期になると特別な場所を見つけては、二人だけの思い出を作っていました。
表向きは淡々とした季節の交代に見えても、実は長い年月をかけて育んできた、密やかで温かな関係が、そこにはあったのです。

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