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ジャズ・ドッグ・ブルース
僕は生まれた時から音楽が好きだった。特にジャズピアノには魅了され、幼い頃から練習に明け暮れた。指が短いせいで苦労したが、それを補うように独自の奏法を編み出した。低音部を弾く時に自然と喉から出る唸り声は、ベースの代わりになった。
今夜もいつものジャズバーでソロ演奏。ステージに上がると、観客たちが微笑む。きっと僕の演奏スタイルに興味を持ってくれているんだろう。
最近は暑い。演奏中、息が上がりやすくなった。舌を出して深く呼吸をしながら、キーを叩く。肉厚の指先が鍵盤に触れる感覚が心地よい。
「素晴らしい演奏でした」とマネージャーが言う。「でも、次からは演奏中に水を飲むのは控えめにした方がいいかもしれません。お客様に水が飛び散ってしまうので」
僕は首を傾げる。確かに演奏に没頭すると、よだれが垂れることがある。でも、それも音楽の一部じゃないか。
帰り際、新しく設置された姿見に映った自分の姿を見て、僕は驚いた。そこには、グレーのスーツを着た一匹のブルドックが立っていた。なるほど、これが観客の笑顔の理由か。でも、どうでもいい。大切なのは音楽だけだ。
明日も僕は演奏する。短い指で、垂れるよだれを気にしながら、でも音楽への情熱は誰にも負けない。それが僕なんだから。
ステージの上で、僕は完全な自由を感じる。ジャズとブルドッグ。意外な組み合わせかもしれない。でも、それこそがジャズの真髄じゃないかな。予想外の即興から生まれる、新しい音楽の形。
今夜も、僕のジャズ・ドッグ・ブルースは続く。
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