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プログラミングの種をまく(1)

ゾンビと算数の意外な関係

佐藤美咲は、28歳のプログラマーだった。大学で情報工学を学び、大手IT企業で4年間プログラムを作る仕事をしてきた彼女には、もう一つの顔があった。週末になると、地域の公民館で子どもたちにプログラミングを教える先生に変身するのだ。

実は美咲には、人に教えることの楽しさを知ったきっかけがあった。実家が営む学習塾で、妹や弟の家庭教師として算数を教えていた経験だ。エンジニアとして2年目を迎えた頃、実家の塾でプログラミング講座を開講することになり、試験的に講師を引き受けたことで、彼女の人生は大きく変わった。

子どもたちの目が輝く瞬間に魅了された美咲は、それ以来、平日はフリーランスのプログラマーとして働きながら、週末は先生として過ごすようになった。穏やかな性格と、物事をわかりやすく説明する能力、そして何より、アニメやゲームが好きという趣味が、子どもたちとの距離を自然と縮めていった。

金曜日の夜。美咲は自宅のパソコンに向かって、明日の授業の準備を進めていた。デジタルペットのデモプログラムは完成し、愛猫の「プログラム」をモデルにしたキャラクターの動きも可愛らしく仕上がっている。

「よし、これなら子どもたちも興味を持ってくれるはず」 そう確信していた矢先、ChatGPTとの対話の中である可能性を指摘された。 「ゲーム好きの男子児童から、もっとアクション性の高いプログラムを求められる可能性があります」

美咲は少し考え込む。確かに、かわいいペットだけでは興味を持てない子もいるかもしれない...。深夜まで、想定される質問への対応を練った。

土曜日の朝。新しいクラスの初日を迎えた美咲は、公民館の一室で最後の準備を整えていた。机の上には手作りの名札が並び、壁には「プログラミングって何だろう?」と書かれたカラフルな模造紙。一人一台のパソコン、手作りのワークブック、そして彼女の愛猫をモデルにしたデジタルペットのデモ画面が準備された。

9時45分、最初の生徒が到着。緊張した様子の女の子に、美咲は優しく微笑みかけた。 「おはよう!私は佐藤美咲です。みさき先生って呼んでね。好きな食べ物はハンバーグで、猫と暮らしているんだ。君は?」

10時、クラスが始まると、美咲はスクリーンにデジタルペット"プログラム"を映し出した。画面をクリックすると、かわいい鳴き声とともにキャラクターが動き、エサをあげると喜ぶ仕組みだ。 「これ、私が作ったんだけど...実は今日から、みんなも自分だけのペットを作れるようになるんです!」

その言葉に、教室中の子どもたちの目が一斉に輝いた。だが、予想通り、元気のいい男子生徒の健一が手を挙げた。

「先生、その猫は確かに可愛いんだけどさ、ぼくはやっぱり戦闘ゲームがしたいんだよ。ゲームだけやりたいよ。親が来た時にさっと計算ドリルの画面に切り替わる、ゾンビのシューティングゲームを作りたい!作って、作って!」

教室がざわつく中、美咲はにっこりと笑った。 「へぇ、面白いアイデアだね!どんなゲーム、普段やってるの?」

健一は目を輝かせながら、好きなゲームについて話し始める。美咲は興味深そうに聞きながら、自分のパソコンの画面を開いた。

「実はね、私も学生の頃、授業中にこっそりゲームを作ってたんだ。でもね、面白いことに気づいたの」

画面には、シンプルなアニメーションが表示されている。 「このゾンビ、プレイヤーに向かって進んでくるでしょ?実は、これって算数の計算をしているんだよ。ゾンビの動きを自然にするには、向きと速さの計算が必要なんだ」

健一は目を丸くして画面を見つめている。

「それに、親が来た時に画面を切り替えるっていうアイデア、プログラマーらしい発想だね!でも、もっとクールなの考えない?例えば...ゾンビを倒すと算数の問題が出てきて、それを解くと特殊武器がもらえるとか。そうすれば、本当に勉強しながらゲームができるよ。しかも、親に怒られない」

教室の空気が変わり始める。他の生徒たちも興味津々で話を聞いている。

「実はね、このクラスでは最終的にみんなでゲームを作るんだ。デジタルペットは始まりの一歩。キャラクターの動かし方、画面の切り替え方、点数の計算...これらを学んでいけば、君の思い描くゲームも必ず作れるようになる。ただし、一つ約束があります」

美咲は人差し指を立てた。 「暴力的すぎない、創造的な企画を考えること。例えば、ゾンビは倒すんじゃなくて、算数の問題を解いて人間に戻すとか。どう?面白そうじゃない?」

健一は大きく頷く。 「先生、それ超クール!じゃあ、ペットの動かし方から教えてください!」

その日の授業が終わり、最初は緊張していた女の子が満面の笑みで手を振って帰っていく姿を見送りながら、美咲は心の中でつぶやいた。プログラミングは「創造力」を形にする手段。答えが一つではない問題に取り組む中で、子どもたち一人一人の個性が輝いていく。それを見守ることが、自分の新しい使命なのだと。

その夜、美咲は日記にこう書き込んだ。 『予想外の展開から生まれた新しいアイデア。子どもたちの興味を否定せずに、より良い方向に導くのって、難しいけど楽しい。来週は、ゾンビを使った算数の説明も準備しておこう。ChatGPTさん、また相談に乗ってね♪』

部屋の隅では、愛猫のプログラムが幸せそうに喉を鳴らしていた。プログラミングの種は、確かにこの教室に蒔かれたのだ。

(次回に続く)

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