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[短編小説]孤狼の軌跡3〜導き手が見つけた答え〜
冬の夜、ツキは悩みを抱えて、シロの住む洞窟を訪ねました。
月明かりに照らされた雪の上には、ツキの足跡が一本、まっすぐに伸びていました。
「シロさん、若い狼たちに私の教えが伝わらないのです」
ツキは、その日起きた出来事を話し始めました。
「今日、私は二人の若い狼を指導していました。ヨルは慎重すぎて、いつも先輩たちの手法ばかり真似ようとする。一方のハルは大胆すぎて、自分の直感だけを信じて突っ走る」
「私は二つの教えを伝えました。『過去の足跡に囚われるな』とヨルに。『未来の足跡に縛られるな』とハルに。でも、二人とも混乱するばかりでした」
シロは黙って聞いていました。
「ヨルは『でも先生は、先輩たちから学べと言いませんでしたか?』と困惑し、ハルは『でも先生は、計画を立てろと教えませんでしたか?』と反論します」
ツキは溜息をつきました。
「私自身、失敗を重ねて、やっとこの二つの教えの意味を理解できました。でも、若い狼たちには、その経験がない」
シロはゆっくりと立ち上がり、洞窟の入り口まで歩きました。
「ツキよ、お前は若い狼たちに、何を期待しているのだ?」
「え?」
「お前は自分の失敗から学んだ。だが、若い狼たちにも同じ道を歩ませようとしている。それは矛盾していないか?」
ツキは黙って考えました。
確かに、自分は失敗から学んだからこそ、二つの教えの深い意味を理解できた。
それなのに、若い狼たちには、最初から完璧な答えを求めていた。
シロは続けました。
「見てみなさい」
シロは月明かりに照らされた雪原を指さしました。
そこには、たくさんの狼たちの足跡が、それぞれの道筋を描いていました。
「どの足跡も、その狼自身の物語を語っている。お前の足跡は、お前の物語。ヨルとハルも、自分たちの足跡を残しながら、自分たちの物語を作っていくのだ」
ツキの目が開かれました。
自分は教えを与えようとしすぎていた。
大切なのは、若い狼たちが自分で気づきを得られるよう、導くこと。
「私がすべきなのは、答えを教えることではなく、彼らが自分で答えを見つけられるよう、支えることなのですね」
シロは穏やかに頷きました。
「その通りだ。それぞれの狼が、自分なりの方法で、過去と未来のバランスを見つけていく。それを見守り、必要な時だけ導くのが、教える者の役目なのだ」
その夜、ツキは新しい決意を胸に帰途につきました。
明日からは、ヨルとハルが自分なりの答えを見つけられるよう、じっくりと見守ろう。
そして時には、自分の失敗の話もしてみよう。
彼の残していく足跡は、今や教師としての新しい学びを、雪原に刻んでいました。
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