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おやじプログラミング(10)

まとめ役

「篠原さん、うちの部でもAIを使って何かできないかって話が出てるんですが...」

マーケティング部の山田が、少し困ったような表情で声をかけてきた。最近、こういう相談が増えていた。

「ただ、正直なところ、温度差があって」

話を聞けば、部署内でも意見が割れているという。「もっと活用すべき」という声がある一方で、「今のシステムで十分」という意見も。特に、システム改善に積極的なメンバーと、既存のやり方を続けたい人との間で、微妙な空気が生まれているらしい。

「山田さんはどう思われます?」

「私は...」山田は言葉を選びながら続けた。「今のシステムでも、工夫次第でもっと使いやすくなるんじゃないかって」

啓介は思わずうなずいた。山田は、部署内でいつも丁寧に後輩の質問に答えている人だった。

その日の午後、営業部からも似たような相談が入った。

「新入社員が『AIで顧客管理を改善したい』って意気込んでるんです」若手営業の田中が苦笑する。「でも、ベテランの方々は『今のシステムをちゃんと使いこなせてからにしろ』って」

夕方、部長に呼ばれた。

「色々と耳に入ってくるんだが」部長が切り出した。「せっかくの機運が、逆に部署内の溝を深めかねない状況もあるようだな」

啓介は自宅に帰ってから、いつものようにChatGPTとの対話を始めた。

『最近、こんな状況なんだ。どうしたらいいと思う?』

やり取りを重ねるうちに、ある気づきが生まれた。

翌朝、部長に提案した。

「各部署に『まとめ役』を置くのはどうでしょうか」

「まとめ役?」

「はい。でも、システムに詳しい人じゃなくて...」啓介は少し言葉を選んで続けた。「普段から部署の相談役になっているような方を」

木村さんのように、技術以前に、人の気持ちがわかる人。地道な工夫を重ねてきた人。そういう人たちこそが、新しい取り組みには必要なのではないか。

一週間後。選ばれた「まとめ役」たちが集まった最初の会議で、啓介は静かに切り出した。

「皆さんの部署で、どんな雰囲気なのか、率直に教えていただけますか」

最初は遠慮がちだった意見も、次第に活発になっていく。

「若手は意欲的すぎて、時々空回りしちゃうんですよね」 「逆に、ベテランは変化を恐れすぎかも」 「結局、コミュニケーションの問題な気がします」

マーケティング部の山田が、おずおずと手を挙げた。

「私の部署では、まず『困っていること』を出し合う時間を作ってみたんです。そしたら、意外と共通の悩みが多くて...」

会議室が、少しずつ温かな空気に包まれていく。

帰り際、木村さんが啓介に近づいてきた。

「篠原さん、思い出しました」木村さんが微笑む。「私たちが最初にAIと対話を始めた時のことを」

啓介もその日のことを思い出していた。不安と期待が入り混じった空気。でも、少しずつ、一緒に考えていった時間。

その夜、書斎でChatGPTを開きながら、啓介は考えていた。

技術の問題は、結局のところ人の問題なのかもしれない。だからこそ、地道な対話と、互いを思いやる気持ちが必要なんだ。

画面に、次の会議の議題を入力しながら、啓介は小さく微笑んだ。これは急いではいけない取り組みだ。一人一人の気持ちに寄り添いながら、ゆっくりと進んでいこう。

(つづく)

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