なが~い!ジャバラ折り絵本のヒミツ
仕掛け絵本には、さまざまな形状がありますが、本文がジグザグに折られたジャバラ折りの絵本もその一つ。広げた瞬間、「おーっ!」となったご経験をお持ちの方もいらっしゃるでしょう。
今回は、ジャバラ折り絵本の製造方法や表現効果のヒミツを探ります。
1. ジャバラ折りとは
ジャバラ折りとは、山折りと谷折りが均等な幅で繰り返される折り方のことです。呼称の由来は、クネクネと歩く蛇の胴体(蛇腹)の形状で、「経本折」とか「アコーディオン折」などと呼ばれることもあります。
2つ折りとか4つ折りなどとは数えず、単位は「山」。写真だと山折りと谷折りをカウントして11山となります。
2.ジャバラ折りの絵本はどうやって作っているの?
ジャバラ折りの本文に表紙を付け、本の形状となっている絵本が「ジャバラ折りの絵本」です。
その長い本文は、何枚かの紙を貼り合わせていることにお気づきでしょうか。絵本に使用する一般的な印刷用紙は寸法が定められていて、大判の用紙でも幅はせいぜい1メートル強。長さのある本文を1枚で作り出すことが出来ないんですね。
機械で折れるケースもありますが、手で折って製造することもしばしば。折り目がズレないよう事前に折り筋を入れたり、貼り合わせた絵柄がズレないような工夫が施されるなど、ジャバラ折り絵本の製造には、印刷や製本のノウハウがいろいろと詰め込まれています。
ジャバラ折の絵本を手にしたら、本文で貼り合わせた部分を探してみてください。貼り合わせた部分を良く見ると、貼り合わせた部分は白地になっている作品もあるでしょう。印刷に使うインクは、揮発性の溶剤を使用しています。絵柄を印刷した部分に糊を付けた付けると接着剤本来の強度が弱まる恐れがあるので、白地にして強度を保っているのです。
3.ジャバラ折の絵本の表現効果
ジャバラ折りの絵本には、どのような表現効果があるのでしょうか。ここではいくつかの効果と、それを活かしたお薦め絵本を紹介します。
3-1. 「併走する」表現
ジャバラ折りの絵本は、レールを走りながら撮影する短距離走のカメラのように、登場人物と併走する表現ができることが特長です。
絵本は、ページをめくることで、場面を変えたり、読者を驚かせたりする手法を使うことがあります。一方で、ずっと一つの被写体を追っていくようなストーリーの場合は、ジャバラ折りの長い紙面の方が向いていると言えます。この特長を抜群に活かした作品はこちらです。
絵巻じたて ひろがるえほんかわ(福音館書店 2016年)
さく/え:加古里子
低下:本体3,000円+税
「こどもの本」60周年記念として製造されたロングセラー『かわ』の特装本です。源流から海に流れ込むまでの道のりをジャバラ折で表現しました。その長さは約7メートル。水の流れが追え、おのずとその役割も分かりやすく伝わってきます。
地面の下には、何があるの?(河出書房新社 2017年)
文:シャーロット・ギラン 絵:ユヴァル・ゾマー 訳:小林美幸
定価:本体2,700円+税
こちらは地面の下の探検絵本。地球の真ん中まで、ググーンと潜っていきます。普段は見ることが出来ない地下の様子を楽しんだ後は、裏返して地上へ向かう旅へ。
ジャバラ折の本文は、厚手の用紙を使用しているので、耐久性もバッチリです。
こねずみチッチのひとりでおつかい(フレーベル館 2007年)
作・絵:末崎茂樹
定価:本体1,000円+税
チッチが一人でおつかいに出掛けるお話しです。その道中を途切れることなく表現し、無事に帰宅できるまでをこっそり見守りながら読み進められます。
3-2. 「パノラマ(一望)」の表現
長さを活かし、ぐるっと見渡すような絵の作品に仕上げることもできるのも、ジャバラ折りの絵本ならではの特長です。本文を広げたり、立てたりして、おもちゃのように遊べる絵本もありますよ。
パタパタ絵本ぐるーりすいぞくかん(ほるぷ出版 2019年)
作:モリナガヨウ
定価:本体1,300円+税
水槽に囲まれた水族館の様子を長い紙面一杯に描いた作品です。まるで本当に水族館を訪れたように、端から端まで魚たちを見学できます。
おみせやさん(ほるぷ出版 2008年)
作・絵:五味太郎
定価:本体8,000円+税
昭和のレトロな雰囲気の商店街が描かれた屏風絵本です。文字はありません。広げて、商店街の端から端まで眺めて楽しむだけでなく、丸く囲んだ中でお買い物ごっこを楽しむこともできます。
3-3.「驚き!」や「新しい!」発想の表現
ジャバラ折りをパッと広げてみたら、想像もしていなかった展開が待っていた、といった企画や、これまでにない絵本の使い方で読者を驚かせてくれる絵本も登場しています。
アッと言わせるジャバラ折り絵本は、こちら。
でんしゃごっこ(マイクロマガジン社 2019年)
著・イラスト:新井洋行
定価:本体1,750円+税
絵本というかおもちゃというか。
円形の構造で、電車ごっこができる仕掛けとなっている本です。外面は電車の絵ですが、本の中に入ってみると中面にはお話が!
あったらいいな!、を実現したような作品です。
魚がすいすい(ブロンズ新社 2011年)
作・絵:ツペラ ツペラ(tupera tupera)
定価:本体1,400円+税
これはもう、実際に手に取って開いてみていただくのが一番!!
これぞジャバラ折りの魅力を最大限に生かした作品といえる一冊です。
何度見ても、わっ!っと驚かされます。すごい!!
いかがでしたか?
ジャバラ折りの絵本は、動画のように楽しめたり、静止画ならではの楽しみ方ができたり、おもちゃになったり。ページが繋がっているだけで、こんなにも絵本の可能性がひろがるなんて、面白いなと思います。
これからも、そんな表現方法が!こんな企画が⁉と驚かさせるようなジャバラ絵本が登場することを期待したいですね。
ご案内は…
矢阪亜希子
印刷業界初!の絵本専門士(第5期)/JPIC読書アドバイザー(第25期)。絵本まるごと研究会や地域の読書支援ボランティアなどを通じて、造本の視点から見た絵本の魅力を伝えていきます。
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