デジタル戦闘力の高いDXアスリートを育てる。愛媛デジラボのプログラムの工夫とこれからのDX人材に必要な要素とは
こんにちは!DX推進リーダーを育てるコミュニティ EHIME DIGITAL TRAINIG LAB 編集部(#愛媛デジラボ)の多葉田 愛です。
前回の記事では、愛媛デジラボでプロジェクト統括・リーダーとしてプログラム全体の設計や講師を担当している榎本晋作さんにインタビューを実施しました。
今回は、愛媛デジラボのプログラム設計の工夫や、目指しているゴールについて引き続き榎本さんにお聞きしていきます!
デジタル人材に必要なスキルやマインドセットなどもお伝えしますので、これからDXに取り組みたいと考えている皆さまの参考になりましたら幸いです。
▼「EHIME DIGITAL TRAINIG LAB」の概要については、以下のサイトをご覧ください!
https://www.pref.ehime.jp/h12110/documents/leaderkensyubosyuyoukou.pdf
「実践」にフォーカスしたプログラム設計
- 今年度は昨年よりも更に「実践」に力を入れてプログラムを作られたとのことですが、それは一体なぜでしょうか?
榎本さん:愛媛デジラボは昨年からDX研修としてスタートしたのですが、今年度はDXにおける「実行力」を重視した講座を設計しました。
初年度の講座では「思考法」を中心にプログラムも設計したので、今年度はアウトプットのスキルが身に付く実践的な内容にアップデートしました。
- 確かに、知識を身につけるだけではなく、実践することが大切ですよね。
賛否両論あると思いますが、僕は「考え方は後から身につけても問題ない」と思っているんです。
サッカーで例えるのであれば、上達方法や戦術を学んだり、考えたりするより前にも、まずはやってみて、サッカーの楽しさを感じてほしいのと似ているかもしれません。
細かい理屈を覚えるよりも、まっすぐドリブルする技術や、相手の足元に蹴るための反復練習、また、ゴールの枠の中に強くボールを蹴るシュート力......
このような基本動作を体感で楽しみながら覚えてこそ、プレイヤーとして成長したい欲求が生まれ、サッカーの戦術や考え方の話に興味が出るわけでして。
英語学習とも似ているのですが、最初から座学で哲学や論理を暗記するような事をしたら、苦手意識がさらに増してしまうように感じています。
自分は「基本の動きができてこそ、初めて “思考”は生きる」と考えています。そんな考えのもとで「DXをやってみる楽しさを知る」ことをテーマとした今年度の愛媛デジラボが生まれました。
デジタル戦闘力の高いアスリートを育てるために
- 研修内容はどのように考えられたのでしょうか?
今までにお話しした構想から、皆さんには「デジタル戦闘力の高いアスリート」になっていただきたいというゴールを最初に設定しました。(*榎本さんは戦闘力のあるビジネスパーソンのことをよく「アスリート」と表現されています。)
「デジタル人材」というとIT分野でバリバリと活躍する方を思い起こす方もいるかもしれませんが、まずはもっと身近なテクノロジー(GoogleスプレッドシートやNotion、Miroなどのデジタルツール)を日常的に活用できる人材を増やすことを目指しています。
- 身近なテクノロジーを無意識レベルで活用できる人材が榎本さんが考える「デジタル戦闘力の高いアスリート」なのですね。
これも賛否両論あると思いますが、僕は、デジタルは「手段」ではなく「強力な武器」だと考えています。増えれば増えるほど戦闘力は高くなり、それらは意識せずとも使える必要がある。
そんな武器を瞬時に使い、呼吸をするように扱えるようにするためには “とにかくやってみる” ことが大切です。
-だからこそ、前回お話していただいたような「企画力」のインプットとアウトプットを織り交ぜる講座が生まれたんですね。
その通りです!運営陣にも多様なバックグラウンドを持ったデジタル戦闘力の高い人材が揃っているのは、私たちをロールモデルとしてさまざまな分野でのデジタルの活用法を知っていただきたいという想いがあるからです。
再び、サッカーで例えますが「ボールを蹴りながら、細かい改善を繰り返していく」をとにかく大事にしていただきたいと考えています。
- 榎本さんも、もちろんその一人だと思います。榎本さんは、これまでどのようにDXに関わってきたのでしょうか?
僕は10年ほど前から、デジタルに課題のある組織のデジタル活用を支援する事によって、企業活動を活発化させる「デジタルアクセラレーション(デジタルによる企業活動の加速)」の支援を行っています。
具体的に言えば、マーケティングプロセスにデジタルマーケティングの要素を取り入れたり、デジタルツールを最大限生かした教育プログラムを設計して企業の人材育成に役立てたりする支援です。
また、自分の会社では積極的にデジタル要素を取り入れた運営をしています。デジタルマーケティングに加え、経理やバックオフィスもデジタル化することで効率化を図っています。
知識マニアにならないように、常にデジタルメソッドやデジタルツールを積極的ではなく強制的に取り入れることで、常に「1人で24人分以上のバリューを出すこと」を意識して生きています。
デジタルが日常的に扱えるように、研修自体にDXを採用
- 今回のプログラムの中で工夫した点としては、どのようなことがありますか?
榎本さん:色々と工夫したことはあるのですが、研修自体に多くのDXを取り入れることは特に意識しました。大きなものでいうと以下の3点です。
①YouTube動画を活用した「フレキシビリティ」
インプットは動画配信による自主学習が中心です。知識のインプットは、大人数で一度に行う必要はなく、個人個人がいつでもどこでも学習ができたほうが効率が良いと考えているためです。
②Slackの活用による「横断的なコミュニケーション」
2つ目はコミュニティ促進のためのチャットツール活用です。
具体的には、Slackを活用して、横と横のつながりを強化を試みました。実際の開発の現場では、仲間とのちょっとした雑談から新たなアイデアやシナジーが生まれることがよくあります。
そんな過程を身をもって体験し、その楽しさを知っていただくためにも、ラボメンバーの皆さんには便利なデジタルツールであるSlackを活用して交流してもらいました。
③デジタルツールの複数活用による「デジタルチャレンジな研修・イベント運営」
最後は、デジタルツールの複数活用による、研修・イベント運営です。
最初のオリエンテーションが顕著だったのですが、その日は、オフライン2会場とオンラインの3箇所によるハイブリッド開催でした。
このようなケースの場合、オンラインとオフライン、あとは会場ごとに分断されてしまうことが多いのですが、とにかく「一体感」を演出したいと考えていましたのでZoomに加え、「LINEのOPEN CHAT」を活用しました。
当日、LINEのQRコードを開場にて配布し、全員が登録、そしてスマホで3会場が1つに集まれる場所を創り出し、YouTubeやインスタのライブ配信のような世界観をそこで作ることを試みた感じです。
LINEのOPEN CHAT自体が、匿名性ということもあり、普段の研修では出ないような意見だったり、言葉使いだったりが出て、良くも悪くも「1つの場所に熱が生まれた」ように感じます。
これは自分が、大学の講義で使っている手法だったのですが、研修で取り入れられる例はあまりなかったようです。この日に限らず、あらゆる場面で、「とりあえずやってみる」というデジタルチャレンジなスタンスはとても大切にしています。
すべてをデジタルで解決するのではなく、時にはリアルな情報のキャッチを
- さまざまなツールを利用して愛媛デジラボを推進していますが、榎本さんがこれからもっと取り入れていきたいことや、これからもデジタル人材を育成していく上で必要だと考えている視点はありますか?
僕はDXについて考える際に「地域の現状」や「その土地に住む人の声」などの一次情報がとても重要だと考えています。
各地域にはその土地特有の問題や培ってきた物語があり、DXを進めるにしても、まず適切なアプローチで切り込むための現場融合型でのアクションが必要だと考えるからです。
- 榎本さんは頻繁に愛媛を訪れていますが、それもやはり「愛媛のDX」という一次情報に触れるためでしょうか?
そうです!僕は昨年(2022年)、自分自身の力の強化のために、「現場で学んで活動する」ことや「受け持っている大学生や愛媛デジラボに限らずあらゆる研修受講者の方との交流時間を増やすこと」など、とにかく一次情報に触れることを意識して行動してきました。
おそらく、年間200日以上は出張に出かけたのですが、愛媛はその中でもダントツで1番滞在時間が長かったと思います。正直なことを言えば、ここまで愛媛に足を運んだのは個人的に愛媛がとても好きというのもありますが...(笑)定期的に、松山のある中華料理屋のしょうが焼き丼を食べないと禁断症状が出そうになります...
今はYouTubeや各種SNSでバーチャル旅やその地域の人との会話ができてしまう時代ですが、やはりその場所に足を運んでキャッチした一次情報や体験から得られることは本当に多くありますし、格別です。
国内はもちろん、今年はドバイやフィンランド、そしてアメリカでもそのように感じました。誰かの解釈なしでインストールする情報との自分との対話こそ、いつもお伝えしている「デザイン思考」の真髄のように感じます。
愛媛デジラボはDXを学ぶ場所ではありますが、すべてをデジタルで解決するのではなく、時には足で体感するリアルな情報を大切にすることもぜひ感じていただけると嬉しいです。
リアルとデジタルの両方の視点を持った真の「未来人材」の育成者として、2023年も僕は奮闘していきます。
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榎本さん考案のプログラムを受講してきた愛媛デジラボの皆さんの「デジタル戦闘力」は確実に高まっているはず。今後、愛媛デジラボを基点としてDXが愛媛県全体へ波及していく未来が楽しみです。