ため池管理における課題への対応状況-概要編-
みなさまこんばんは。ため池のある暮らしの未来をつくる研究者,柴崎浩平(主なフィールド:兵庫県東播磨)です。
前回,ため池の管理者は何を課題として捉えているのか?という点について,アンケート調査の結果をもとに概観しました。そこでは,以下のような内容について言及したました。
・草刈り問題を筆頭に,農地や里山の活用,水管理の技術継承については,どこの地域・人にとっても課題として認識されている傾向がみられる。これらは東播磨地域共通の課題といえそう。
・ため池協議会の再編や補助金の事務作業の実施に関しても,広く認識されつつある課題である。
・一方,ビジネスの開発や再生可能エネルギーの活用,ため池の縮小・有効活用,ハードや生態系に関する課題などは,ある特定の地域・人で課題となっているテーマである
詳しくは,以下の投稿をご覧ください
今回は,同じアンケート調査のなかで聞いた,それらの課題に対して,どの程度対応をおこなっているか,という点について紹介していきます。
1. アンケート調査の実施概要
① 配布・回収方法
加古川総合庁舎にておこなわれた「いなみ野ため池ミュージアム運営協議
会総会」にて配布・回収(2019.7.3)
② 回答者について
回答者数:50人(45のため池協議会の代表者)
有効回答者数:48人
* 東播磨には76のため池協議会が存在(2019.7.3時点)
* ため池協議会の代表者の大半は,農家および水利組織関係者
2. 課題に対する認識と対応状況
下の図は,前回紹介した課題への認識と対応状況に関するグラフを並べたものになります。
「堤体や畦畔の草刈り作業の継続実施」などの課題に対して,「どの程度対応をおこなっていますか?」と質問し,3段階(「1. 課題でない」「2. やや課題」「3. 大きな課題」)で答えて頂いたもの,「どの程度対応をおこなっていますか?」と質問し,3段階(「1. 何もしていない」「2. 新しい試みを検討中」「3. 新しい試みを実施」)で答えて頂いた結果をまとめたものになります。
いずれのテーマにおいても,「やや課題」や「大きな課題」と思っている割合よりも,「新しい試みを検討中」や「新しい試みを実施」している割合は低くなっています。
例えば「農地や里山の活用や再生」をみると,「やや課題」が47%,「大きな課題」が38%であるのに対し,「2. 新しい試みを検討中」が26%,「3. 新しい試みを実施」が2%となっています。
他のテーマについても同様,「新しい試みを検討中」や「新しい試みを実施」している割合は低くなっています。
これらの結果から,いずれのテーマにおいても,課題と認識しつつも,具体的な取り組みがおこなわれていない層も存在することが読み取れます。
以下,対応状況について詳しくみていきます。
3. 対応状況の全体的傾向
下の図は,上の図から対応状況のみを整理したものになります。
各課題ごとにみていくと,大きく3つのグループに分けれそうです。
グループ① 新しい取り組みを実施または検討している割合が高い(60%ほど)課題
「堤体や畦畔の草刈り作業の継続実施」は,「3. 新しい試みを実施」が23%,「2. 新しい試みを検討中」が43%となっており,新しい取り組みを実施・または検討中が多数を占めることがわかります。
グループ② 新しい取り組みを実施または検討している割合が低い(30%ほど)課題
「農地や里山の活用や再生」や「水管理に関する技術継承」,「ため池協議会の組織改革・再編」,「補助金等の事務管理作業の継続実施」は,「3. 新しい試みを実施」が2〜10%,「2. 新しい試みを検討中」が24〜31%となっており,3割合程度が,新しい取り組みを実施・または検討中であるといえます。
グループ③ 新しい取り組みを実施または検討している割合がほとんどない(10%ほど)課題
「ため池を活用した新しいビジネスの開発」や「再生可能エネルギーの開発や利用」は,「3. 新しい試みを実施」が0〜3%,「2. 新しい試みを検討中」が8〜12%となっており,新しい取り組みを実施・または検討中である方は少なくなっています。
4. どのような対応がとられているのか?
では,これらの「新しい試み」とはどういった取り組みなのでしょうか。現時点では全てお答えすることはできませんが,例えば以下のような声を聞いています(代表的な対応のみの紹介となります)。
1.「堤体や畦畔の草刈り作業の継続実施」に関する対応
草刈りといえば,以下のようなスタイル(刈払い機)でおこなうのが一般的です。
が,近年ではより効率的に草を刈る機械が増えており,そういった機械を導入するといった取り組みがみられます。
特に近年では,一番下の写真にあるような,ラジコン草刈機の導入が検討されています。実際,近隣の集落と共同でラジコン草刈機を導入し,他地域への出張草刈(請負)も始めた集落もあります。
2.「水管理に関する技術継承」に関する対応
水入れ役を増員し,水管理技術の継承に取り組んでいる地域があります。この地域では,パイプラインが整備されておらず,元来,水入れ役は特定の者(1名)が従事していました。
が,その方が高齢になり,水入れを専従でおこなうことが難しくなったため,集落の非農家の若手(50代)にも,水入れ作業に従事してもらい,技術を継承している事例があります。
3.「ため池を活用した新しいビジネスの開発」
ため池を管理していくにあたっては,管理費が必要となります。その管理費を捻出するために,ため池を活用して収益を得る取り組みをおこなっている事例があります。
例えば,「ため池ゴルフ」や「ため池ソーラー」などがあります。
5. 対応のしやすさ
以上にみてきたように,各課題に対しての対応状況は異なっていました。
この結果の解釈の仕方はいくつかできると思いますが,一つに「対応のしやすさ」があるかと思います。
言い方を替えると,「自分たちで色々工夫して,具体的な対応が取りやすい課題」と「具体的にどのような対応をして行けばいいか,検討しにくい課題」があるということです。
例えば,草刈りに関しては,農業に携わる者であるならば,特別新たなスキルを身につけなくとも実施可能な作業であります。また,行政からの補助金も多く存在します(先述したような機械の購入についても,補助金を活用した取り組みが多くみられます)。そのため,草刈りは自分たちで色々工夫して,具体的な対応が取りやすい課題といえるかと思います。
一方,ビジネスの開発などについては,専門的な知識を身につける必要性があるだけでなく,助成メニューも限られています。そのため,具体的にどのような対応をして行けばいいか,検討しにくい課題であるといえるでしょう。
6. まとめ
以上にみてきたように,課題への対応の程度は,3つに分けれそうです。
・ 新しい取り組みを実施または検討している割合が高い課題
=「堤体や畦畔の草刈り作業の継続実施」
・新しい取り組みを実施または検討している割合が低い課題
=「農地や里山の活用や再生」や「水管理に関する技術継承」,
「ため池協議会の組織改革・再編」,
「補助金等の事務管理作業の継続実施」
・新しい取り組みや検討がほどんどされていない課題
=「ため池を活用した新しいビジネスの開発」
「再生可能エネルギーの開発や利用」
ただし,いずれのテーマにおいても,課題と認識しつつも,具体的な取り組みがおこなわれていない層も存在することがわかりました。
また,「自分たちで色々工夫して,具体的な対応が取りやすい課題」と「具体的にどのような対応をして行けばいいか,検討しにくい課題」があるというように,「対応のしやすさ」は課題ごとで異なることも考えられました。
本日はここまで。最後まで読んでいただきありがとうございました。
文責:柴崎浩平