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ため池の管理作業って何するの?

こんにちは。東播磨フィールドステーションに駐在しております柴崎浩平です。今回は,地元の方がどのようにため池を管理しているのかについて書いていきたいと思います。

1. 管理作業の内容

地域ごとに違いはありますが,大きくは以下の6つにまとめることができます。

① 水位の調整 

水田に水を供給するため,あるいはため池や水路から水が溢れないように,ため池の水位の調整します。ため池の水位は,田植えが始まる6頃をピークに,下がっていくイメージです(冬場でも水位の高いため池も増えているが)。すでに水位の高い時期の大雨は,ため池の堤防(堤体という)を越流する危険性も高まります。

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大雨が降った直後(7月)のため池の様子(下写真)

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夏場のため池の様子(下写真)

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冬場のため池の様子(下写真)

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斜樋を開け,水位を調整する様子(下写真)

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② 水入れ

「水入れ」とは,水田に水を供給するため,ため池から水田までの配水をおこなう作業のことを言います。

6月頃から水田に水が張られ,9月中頃まで作業がおこなれています。

水入れの方法は,大きく分けて2つあります。

1つは,パイプライン方式。パイプラインのある水田(ため池と水田がパイプラインで繋がっている)は,バルブをひねれば水がでてきます(下写真)。基本的には,耕作者がバルブを操作し,自身の水田に水を供給します。設備投資としてお金はかかりますが,作業負担は少ないです。

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2つは,水入れ役方式。アナログな方法。堰板(下写真の黄色の板)などを開け閉めして,水の流れや水量をコントロールし,配水をおこないます。堰板などを操作し,水田に水入れする人を,「水入れ役」といったりします。耕作者は自身の好きな時に水を入れることはできず,「水入れ役」が地域全ての水田に水を入れていきます。設備投資としてお金は少額ですみますが,作業負担は大きいです。

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③ 共同作業(草刈りや水路清掃)

堤体(ため池の堤防)の草刈りや野焼き,集落の水路の清掃をおこないます。田植えが始まる前や冬場に,堤体の草刈りが行われるケースが多いです。また冬場は,野焼きもおこなわれます。傾斜が急な堤体も多いため,草刈り作業のなかでも難易度は高い作業になっています。

水路清掃は,水路に泥や枯れ葉などが堆積してしまうと,水が流れにくくなるため行われています。また水路には,大きく分けて農業用と生活用があり,水路の種類ごとで水路清掃に参加する人も変えている地域もあります。

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④ 設備の点検・整備

水を貯め,供給するためには,多くのモノが必要になります。以下は,昔と今のため池の仕組みを示した図です。こういった設備に故障がないか点検するとともに,不備があった際は,対応する必要があります。またため池だけでなく,水路の点検・補修も重要な作業になっています。

昔のため池の仕組み(下写真)

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今のため池の仕組み(下写真)

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ハンドルには,だいたい鍵がかけられています(下写真)

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水路から水が漏れることもよくあるという(下写真)

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⑤ お金の管理

ため池を管理していくには,多くのヒト・モノが必要となります。そういったヒト・モノを動かすために,必要な経費は,主には管理組織の会計役が管理しています。会計に関しては大きく2つあり,これらの徴収・執行・報告をする必要があります。なお,徴収先は,その目的ごとで異なります。

(1) 日常的な会計

人件費(草刈りや水入れに関わる人件費),水利費(水田への配水や集落から排水するために必要な水路の管理にかかる経費),軽微な改修費,電気代,などがあります。

(2) 非日常的な会計

大規模な改修工事に伴う手続きや費用の徴収,ため池が売却された際の売却金の管理,用途の決定などがあります。いずれも億単位のお金が動きます。(1960〜1970年代前半にかけて,多くのため池が(部分的)に埋め立てられ,公共施設や道路が建設されたました。「〇〇池中学校」などはその名残)

⑥ その他(イベントの実施など)

以上にあげた作業に加えて,近年ではイベントの実施などもおこわれています。その背景には,農家が減少してきたため,農家以外にも管理に携わってもらおう,という取り組みが行政主導のもとですすめられたことが挙げられます。(詳しくは,後日紹介します)

主なイベントとしては,クリーンキャンペーン(ゴミ拾い)やウォーキングイベント,かいぼり(ため池の水を抜く)などがあります。その他にも,SUP(Stand Up Paddle)や生き物観察会など,ため池をより身近に感じてもらうためのイベントが開催されています。

クリーンキャンペーンの様子(下写真)

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かいぼりの様子(下写真)

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ため池でのSUP(Stand Up Paddle)イベントの様子
*いなみ野ため池ミュージアム運営協議会FBより転載

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2.  管理作業の主体

以上の作業は,各管理組織がメインでおこなっている活動ではありますが,全ての作業を水利組織のみでおこなっている訳ではありません。

以下の図は,作業内容と作業主体の関係性を,作業の専門性や参加する人数(あくまでもイメージです)を関連づけて表しています。以下では,作業の専門性という視点から説明していきます。

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まず,専門性が高い作業として,水位の調整やお金の管理,施設の点検・整備,水入れなどがあります。これらの作業を適切におこなうためには,集落固有のナレッジ(知識や知恵など)が必要となり,経験をつまないとできない作業となっています。これらの作業には,水利組織が従事しており,規模により異なるが,イメージでは10人ほどが従事しています。が,特に水位の調整やお金の管理は,水利組織のなかでも水利組合長や会計役などある特定の人物がメインにおこなっているケースが多いです。

続いて,専門性が中程度の作業として,草刈りや水路清掃といった作業があります。これらは,全戸参加でおこなわれる,つまり水利組織に加えて,農家や住民が参加するケースが多くあります。そのため参加人数は80人ほどでしょうか。しかし,都市部では,水利組織のみでおこなわれるケースも多くあるため,参加人数は大きく異なるのが現状です。

最後に,専門性が低い作業として,イベントへの参加というものがあります。こういったイベントの参加者には,集落外の人も多く参加しています。例えば,クリーンキャンペーンには,何百人といった人が参加している地域もあります。

3. まとめ

以上,ため池を管理していくにあたって,どういった作業をおこなっているのか,という概要についてみてきました。

ため池の管理と一言でいっても,多様な作業があったかと思います。

私が調査にいって特に面白いと感じる点は,集落固有のナレッジ(知識や知恵など)に触れることです。例えば,一つのため池を5つの集落でシェアするために蓄積されたナレッジ,大雨の際に真夜中に樋を開けにいき集落を守った人のナレッジ,水が乏しいなかで水を平等にシェアするために蓄積されたナレッジ,10年以上も一人で水入れをおこなってきた人のナレッジやそれを引き継ぐために新たな仕組みを作っていこうとしている人のナレッジなど。

こういった個別具体のナレッジについては,今後紹介できればと思います。また,次回以降,水利組織がどういった課題をもっているのか,どういった作業が実施困難になってきているのかなど紹介できればと思います。

ひとまず今日はここまで。最後まで読んでいただきありがとうございました。

文責:柴崎浩平


【主な参考文献】

・永田恵十郎(1988)『地域資源の国民的利用』農山漁村文化協会.

・今田美穂 , 青柳みどり , 渡辺貴史 , 高村典子(2009)「ため池の管理組織形態と存続をめぐる費用負担の実態-兵庫県北播磨・東播磨地域を事例に-」『農村計画学会誌』 27, 239-244.

・南埜猛(2011)「溜池の存続とその維持管理をめぐる取り組み - 兵庫県東播磨地域を事例として」『経済地理学年報』 57(1), 75-89.

・本田恭子(2013)『地域資源保全主体としての集落-非農家・新住民による再編を目指して-』農林統計協会.




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