ハードとソフトからみる行政の取り組みの概要
こんにちは。東播磨フィールドステーションに駐在しております柴崎浩平です。今回は,ため池を管理していくにあたって,行政機関がどういった取り組みをおこなっているのかという概要について,東播磨地域を事例に書いていきたいと思います。
取り組みといっても膨大にあるので,ここではひとまず,ハード面とソフト面,大きく2つに分けて整理していきたいと思います。
1 . ハード的側面
以下の図のような,ため池に必要な設備の点検や改修に関する取り組みです。管内のどこのため池が危険なのか,どこのため池をどのように改修するのかなど,いわゆる農業土木,農業農村工学,水理学などに関する領域。
私はこの分野の専門ではないので,詳しくないのですが,最近覚えたのは「ラビリンス堰」という堰・洪水吐があること。その他にも,弘法大師は土木技術者としての役割も担っていたとか,ため池発祥の地はスリランカ?!,農業土木と築城技術の関連など,奥が深い世界が広がっています。
東播磨地域では「加古川流域土地改良事務所(通称,加古流)」が,ため池などの改修に関わる業務を担っています。
近年では,防災に関する取り組みが活発におこなわれており,「そもそも各ため池の施設はどうなっていて,誰が管理しているのか?(=ため池台帳の作成)」といった基礎情報はもちろんのこと,「決壊すると人々に大きな被害をもたらすため池はどれか(=特定ため池の設定)」,「各ため池の設備の老朽化の程度はどの程度か,すぐ改修する必要があるのか,どのため池から改修していくか(=ため池の整備計画)」などなどの取り組みがおこなわれています。
2. ソフト的側面-いなみ野ため池ミュージアムについて-
ソフト的側面も様々なされていますが,兵庫県下で特徴的な動きとしてあげられるのは,「いなみ野ため池ミュージアム」の取り組みです。
「いなみ野ため池ミュージアム」は,東播磨県民局や管内の関係市町(明石市,加古川市,高砂市,播磨町,稲美町)によって,2002年に創設されました。
「ミュージアム」といっても,博物館などの建物があるわけではなく,「地域全体が博物館」という思想(エコミュージアム)に基づいた,ため池の保全活動です。
「いなみ野ため池ミュージアム」の取り組みの目的を簡潔にいうと「農家が減ってきて,ため池の管理が困難になってきてる。みんなで守っていこう!!」ということになります。
堅い言葉でいうと「ため池管理における市民参画」を促す,ということになります。
そして「みんなで守っていく」ために,「ため池協議会」という新たな地域組織(主には集落単位)の設置を促しました。その「ため池協議会」の活動を「いなみ野ため池ミュージアム運営協議会」がサポートしています。
例えば,ため池協議会が開催するイベント・研修会への助成や,専門家などの人的ネットワーク確保,広報活動のサポートなどがあります。
各ため池協議会は,年間2万円の会費を支払い,こういったサポートを受けつつ市民参画に関する取り組みをおこなっています。
ため池協議会の具体的活動については,後日紹介していきます。
3. まとめ
以上,すごく簡単にではありますが,行政機関の取り組みをハードとソフトに分けて述べてきました。
次回以降は,ため池管理における市民参画のあり方を深く考えていくために,いなみ野ため池ミュージアムやため池協議会についてより詳細に触れていきたいと思います。
というのも,ため池管理において行政が主導となり市民参画を促すという取り組みは,全国的にみても稀であり,「先駆的」であるからです。
しかし,長年取り組まれてきたからこそ見えてきた課題もあります。次回以降,ため池協議会の具体的な活動内容に触れつつ,そういった課題についても言及していきたいと思います。
文責:柴崎浩平
参考文献
・森脇馨(2019)「市民協働によるため池保全」,中塚雅也編『農業・農村の資源とマネジメント』,神戸大学出版会,155-178.