連載『ロマンスはカイロにて』 #5 暇とパスタ
大学3回生の冬休み。寒さの厳しいアレクサンドリアを脱して、「恋するダハブ」という異名があるリゾート地に逃避行した。そこでの出会いと束の間の日常を描く。
#1は こちら
それから僕たちはよく話すようになる。だいたいリゾート地と言ってもレストランと海しかないような場所なのである。ホステルにおいてある本を読むのにも飽きると自然と喋りたくなる。日本語ならそれが一番いい。
2日目の夜、僕とムハンマドさんは二人で買い出しに行き、夕食に簡単なパスタを作り食べた。ホステルの屋上には小さな小屋がありそこがキッチンになっていた。お世辞にも設備が整っているとは言えないけれど、最低限の調理器具とある程度の火力が出る二口のコンロがあったのでなんの文句もなかった。ニンニクをみじん切りにし、オリーブオイルで炒めるとそこには香ばしさが充満した。幸せの匂いだ。そこにみじん切りにした玉ねぎ、トマトペーストとひき肉を入れ火が通るまでじっくりと加熱すると、簡易的なボロネーゼが出来上がった。特別美味しいとは言えないまでも、退屈凌ぎに料理は最適だった。
「写真撮っていいですか?」
「いいよ」
ムハンマドさんがそう答えたので、僕は皿洗いをしている彼の写真を撮った。すると、
「もっと引いた方がいいかな。窓が入るといい写真になるんだ」
とアドバイスをくれた。正直その時は、そのアドバイスにどんな意味があるのかわからなかったが、教えを忠実に守っているうちに、なんとなく言いたいことがわかってきた。僕はその時換算で約80ミリの単焦点レンズを使っていたので、多くの写真が被写体によっていたのだった。そうなると写真を何枚か連続で見た時にかなり仰々しい印象を与える。
「普段写真を自分が撮ってばっかりだから、撮られるのは新鮮で嬉しい」
とも言っていた。それは完全に同意のできることだった。僕は元来撮られたがりだけども、自分がカメラにハマってしまったものだから、フォルダは友人や他人の写真で埋め尽くされている。その1割でも自分の写真だったら嬉しいだろうなと常々思っていたところだった。
夜ご飯を食べ終わると、共用スペースに戻ってポテチを食べながら話し始めた。初日は眠くてすぐに寝てしまったけれども、その日にゆっくりと睡眠を取ったため、今日は特に眠くはなかったのだ。