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連載『ロマンスはカイロにて』 #2 夜行バスに揺られて


大学3回生の冬休み。寒さの厳しいアレクサンドリアを脱して、暖かなダハブへの逃避行をした。そこでの出会いと束の間の日常を描く。
#1はこちら


ダハブへの道のりは長かった。夜行列車でアレクサンドリアからカイロを経由し、シナイ半島に入る頃には5時間が経過していた。バスの中は冬だというのに冷房が効いており、眠ることが困難だった。それでもラジオを聴きながらうとうとしていると叩き起こされた。午前3時ごろの話である。何事かと思えばシナイ半島に入る前に検問があるようだ。乗客は全員バスから降ろされ、パスポートと荷物を検査される。

シナイ半島は治安が悪い。特に観光地などがない北部は過激派勢力の活動地域でありたびたび銃撃や襲撃事件が起きている。シナイ半島の中では外国人は自由に行動することができず、必ずバスなどに乗って目的地に行かなければならない。ただ観光地のある南部は比較的安全であるとされている。

バスの荷物置きに預けていた荷物を回収し検問の並べられたテーブルにスーツケースを広げる。乗客全員で荷物の前に整列する。バスの中も寒かったが、外はもっと寒い。砂漠の夜は冷えるという話をよく聞くが、まさにその通りだった。正直アレクサンドリアのよりも全然寒かった。これからダハブという海のあるリゾート地に行くという実感が全く湧かない。もしかすると来る時期を間違えたかなと、今更考えてもしょうがないことを思った。


すると検問所の職員だか軍人だか警察だかわからない役人が、私たちのスーツケースの中身を一瞥する。本当に一瞥するだけで検問は終わってしまった。

「これで終わりならいちいち降りなくてもいいじゃないか」
と、乗客のいかにも観光客風の西洋人がつぶやく。彼になんとなく同意を示すと話しかけられた。

「なんでスーツケースがこんなにも埃まみれなんだ?ただバスに預けただけなのに。」

彼のスーツケースだけでなく、乗客の荷物は埃にまみれていた。彼の言う通り私たちの荷物はたった数時間預けただけで埃だらけになっていたのだ。私はこんなこと日常茶飯事で気づきもしなかったため彼の指摘が新鮮に思えた。

「THIS IS EGYPT」

と私が答えると彼は声を出して笑っていた。

その後何回も検問があったが、外に出されたのは最初の一回だけだった。もちろん私はビザを持っていたしパスポートの有効期限も十分なため特にビビる必要もないのだが、元々神経が細いたちであるため、職員にパスポートを求められるたびに「もしパスポートを返してもらえなかったらどうしよう」とか「もし何か問題があって、この検問でバスから降ろされたらどうしよう」などと考えていた。


全ての検問を過ぎる頃、夜が明けた。荒野に朝日が昇る光景をぼんやりとした頭でじっと見つめた。頭が働いてなかったため、なんともおもわなかった。


私は寝るのを諦め、再びラジオを聴き始める。シャルマンシェイクという空港のある街でバスを乗り換え、そこからさらに数時間バスに揺られるとバスの窓から、

DAHAB
MASIC AND BEAUTY

看板


という文字が見えた。「魔法と美の街・ダハブ」とでも訳そうか。何が「魔法」なのかは全くわからない。そんなことどうでもよかった。とにかく、ダハブに到着したのだという喜びが全身を満たした。ほぼ半日バスに乗り続けた私の肉体は限界を迎えていた。こんなに長い移動は、日本からエジプトにきた時以来だった。



窓から見えたキャッチコピー


バスは停留所にゆっくりと腰を下ろした。私はバスから飛び出し、大きく体を伸ばした。


#3に続く


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