古着ヤクザって、一体何?~7月東海地方巡業・名古屋場所~
インスタを開けば、今日も同じような服。
人気の形、人気の素材、人気のメーカー。
何がどう凄いか、全てが情報化された市場。
皆が教科書に載った、共通認識の正解を追い掛ける時代か…。
一人のジジイの呟きは、
煙草の煙と共に、茶色がかった喫茶店の壁面へと吸い込まれていった。
ここは太閤口の喫茶店、モック。
岐阜在住の古着好きの知人から紹介いただいてからというもの、名駅付近で時間を潰すときはここだ。
私は、このあと合流する名古屋の古着ヤクザパパ達とのことを考えては憂鬱な気分になっていた。
自分より、ひとまわり、ふたまわりほども違う目上の人間を連れての古着屋訪問は、気の遣い方がいつもの比でない。
ヤクザパパ達をヨイショしつつ、古着屋の方々へも配慮をしなくてはならないからだ。
憂鬱の種は、これ一つではない。
私が数年目標としてきたアイテム(古着)が、突如として入荷情報に挙がってきた事実もそうである。
おかげでこの日は2時間も眠れていない。
「そろそろ、ひと仕事してきますか……」
重い腰をあげ、この店の愛想のよいママにチェックを告げると、モーニング代の430円を渡し、店をでた。
古着ヤクザは、私が集合場所として名古屋の名店(名駅太閤口喫煙所)を指定したのにも関わらず、金時計を指定してきた。
約3か月ぶりの再会である。
彼は、年下の私とも仲良くしてくれる稀有な人材であると同時に、同じ古着屋をこよなく愛する仲であった。
その古着屋は名古屋・大須に店をかまえている。
大須といえば、東京・秋葉原、大阪・日本橋と並ぶ、日本三大電気街に数えられると同時に、日本で指折りの古着タウンである。
私がはじめて名古屋の古着に触れたのは、5年前の大学卒業前。
以来、この街の古着のレベル、それらを支える名店な数々に惚れ込んでいるのだ。
ここで事前に説明をしておくが、
古着ヤクザというワードの定義は「著名かつ高単価の古着名アイテムを恐ろしいスピードでコレクトしている子持ちの古着好きパパ」である。
妻子を養いながら、古着以外の生活も充実させつつ、
古着市場を蹂躙するその姿は、ヤクザというワードを用いずには表現できない。
さて、話が脱線してしまったので元に戻そう。
金時計で合流した我々は、本日の予定のすり合わせをしつつ、地下鉄桜通線、鶴舞線と乗り継ぎ、最寄り駅の大須観音に降り立った。
大須観音は今日も若者と、どうしようもなさそうなおっさん古着好きたちで溢れかえっていた。
改札を通り、地上へと出ると、
たまたまバッタリ、本日合流予定の古着ヤクザと遭遇。
はじめましての挨拶を交わし、一行は本日入荷日の古着屋へ向かった。
最初に訪問した古着屋は、私があまり買い物をしない店であるが、ヤクザ達の御用達のお店だという。
コンビニよりも狭い店内では、入荷日目当てで訪れていた古着好きで溢れかえっていた。
私は一通り目を通したあと、欲しいものは無いと判断し、
ヤクザたちの買い物のサポートをしつつ、店内の人間観察をした。
店内には浜松で活動している古着YouTuber(登録者2,800人ほど)の少年がおり、仲間のギャングたちとデニムアイテムについてあれこれ語っていた。
彼は私より4、5歳ほど年下であるが、恐ろしい勢いで古着を買っている勢いの良い若者だ。
ウンウン、たくさん買って、たくさん経験を積んで業界を引っ張っていってくれよ、と肩を叩くと『は?誰お前』と言われた。
連れのヤクザ達が各々ヤクザアイテムの決済を済ませたあとに、一行は次の古着屋へ目的地を設定した。
次が、私の本命の古着屋である。
ヤクザ達にしきりと『何を狙っているの』と聞かれた私はヘラヘラしながらこれですねーと答えたが、
内心は、売れていてほしい、それなら物理的に買うことができないから。。。
と淡い期待を抱いていた。
店に着いた私は、呼吸を整え、十字を切る。
この階段を登った先で起こるであろう「予想を越える体験」を身構えた。
階段を登る足取りは最初重かったが、一段ずつその足取りは軽くなり、
重い扉に手を掛ける頃にはニチャスマイルへと変容していた(重病)。
この先で起こったことはネタバレになるため記述を控える。
通院(我々の界隈で、衝動を抑えきれずしてしまう古着巡りのことを指す)を終えた我々は、
御幸亭の洋食で腹を満たし、喫茶パイカルでアイスコーヒーを啜っては、幾つかの煙草を灰にした。
古着ヤクザが野暮用を済ませる間、
私は古着屋s@lviaでPOP UPをしていた友人に差し入れをしたあと、
有名YouTuberが5月にオープンさせた古着屋を覗きにいった。
あまり詳しくない方のために一から説明すると、
この古着屋は、登録者100万越えYouTuber「北の打ち師たち」のメンバー 「ハルキ」くんが昨年三軒茶屋にオープンさせた古着屋の2号店である。
オープンして2か月の中で既に6,600人フォロワーのインスタアカウントを持つこの古着屋の実力や如何に…。
いつもの通り、入り口で一礼し「よろしくお願いします」と呟いたあと、店内に足を踏み入れた。
店内は、想像に反して、客が私一人だけだった。
今の20代前半の古着キッズ達は、大概この店をプロデュースしている「ハルくん」の視聴者が多くを締めているはずなので、少々面喰らった。
これは恐らく、名古屋という古着タウンの「ビンテージ主義」の要素が多少なりとも影響しているのかな…とそれらしい理由をつけたが、本当の理由は、単に灼熱の気候だったからに過ぎないだろう。
店内は細長いが和室をモチーフにした内装で、セレクトショップ風な、見易く無機質な空間に仕上がっていた。
私があまりに真剣に古着をみていたからであろうか、特に声は掛けられなかった。
そんなこんなで店内に滞在すること5分、商品を見終えてしまったので、あとは店内レイアウトや導線の作り方、スタッフの接客待機の様子などを舐め回すように観察し、店を出た。
これから脅威となってもおかしくないこの古着屋の伸び代を測りつつ、今はまだ恐るるに足らないと判断し、また来ますと告げて(来るなよ)店を出た。
その後はヤクザと煙草を数本吸ってから、
ヨドバシのトミカ・プラレールコーナーで暴れたあと、
私は単身、岐阜へと足取りを進めた。
今夜の舞台は岐阜の西柳ヶ瀬。
半年振りの訪問となるスナックと、今夜はどんな麗しの「岐阜のママ」と出逢えるのか…
と期待をムクムクと膨らませていた。
岐阜での詳細は後編に続く。