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上野公園の夜間を活用した新たな文化創出を目指して

私が事務局を務める東京文化資源会議にて取り組んでいる、上野公園を基盤に、環境・文化・経済をつないで「新しい生活様式」の要求にもこたえるまちづくりを描き出すべく、求められる事業モデルや上野公園の公園管理組織(PMO)の在り方を提案する上野ナイトパークコンソーシアム。

その上野ナイトパークコンソーシアムおよび東京文化資源会議にて、文化庁の令和2年度 博物館・文化財等におけるナイトタイム充実支援事業が採択され、私は事務局および企画全般のプロデュースとして関わらせていただきました。(2021年実績)

ここでは、本企画の取り組み概要についてご紹介いたします。

博物館・文化財等におけるナイトタイム充実支援事業とは

文化庁からの受託を受けて実施する本事業は、「博物館・文化財等におけるナイトタイム充実支援事業」と名前が付いているとおり、博物館や美術館、それらを含めた文化財を利活用し、さらにナイトタイムエコノミー(夜の経済)を創出するための支援事業です。

提案企画として、2021年2月前後の一定期間において、上野公園噴水前広場を活用したアートイベントを主軸に、訪日外国人観光客を含めた夜の江戸東京文化体験ツアー、ホテル、地域の商店街など周辺地域と連携した夜間飲食文化の提供など、様々な企画をもとにした一連の事業を想定していました。

しかし、新型コロナウイルスの流行によって緊急事態宣言が発出され、それらに伴う東京都からの上野公園噴水前広場の利用停止措置、連携先である東京国立博物館などの各文化施設の閉館などにより、当初計画していた事業の大幅な修正を余儀なくされました。

結果的に、新型コロナウイルスによる影響を鑑み、本事業期間内においては、夜の江戸東京文化体験ツアーによる夜間の美術館・博物館利活用における国内向け企画および訪日外国人観光客向けの商品造成のさらなる開発を目的とした、モニターツアーおよび情報発信の基盤強化を中心とした実施内容へと修正を図り本事業を推進しました。

合計で2 回開催されたモニターツアーでは、東京国立博物館の夜間貸切利用のもと、訪日外国人観光客向けのツアー商品造成に向けた多言語対応や宿泊付旅行商品造成などにおける実施基盤強化など、今後の継続的な企画開発に向けた課題抽出や分析を行うことができました。モニターツアーでは、富裕層を中心とした訪日外国人観光客向けの旅行商品造成を行う旅行会社らを中心に、本企画趣旨に沿う関係者を中心にお声がけさせていただき、少人数ながら、モニターツアーしてツアー参加者らからの意見やフィードバックをしっかりいただく形にしました。

ナイトミュージアムによるモニターツアー企画

●「日本のたてもの展」解説モニターツアー

2020年12月24日(木) ~ 2021年2月21日(日)の期間中、東京国立博物館で開催されていた特別展「日本のたてもの―自然素材を活かす伝統の技と知恵」を、建築のプロであるゲストらによる解説をもとにしたモニターツアーを実施しました。

特別展でのモニターツアーとなりましたが、日本の伝統的な技術や文化が結集した日本建築について、その歴史的な意義などについて、専門家らによる解説を充実させ、海外から日本の伝統文化に関心のある方々に向け、どのような情報に関心を持つのか、といったことを踏まえながら実施しました。

訪日外国人観光客向けに旅行商品を造成している企業や団体らもツアーに参加いただいた

ツアーゲストとして、「日本のたてもの―自然素材を活かす伝統の技と知恵」に解説文を寄稿された藤井恵介先生(東大名誉教授)と、伝統建築の専門家である上田忠司氏(竹中工務店)らを招聘し、建築の歴史や伝統技術についてそれぞれの立場や知見から語っていただく解説ツアーとなりました。

●東京国立博物館夜間拝観モニターツアー

二回目のモニターとして、東京国立博物館の常設展の夜間拝観によるモニターツアーを開催しました。

寛永寺僧侶の石川執事

特別展ではなく、東京国立博物館の常設展でのツアーということで、主に仏像や如来像などの仏教彫刻、絵巻や装飾といった古来からの日本文化に関連のある展示をメインに、訪日外国人観光客向けのヒアリングやフィードバックをいただく機会としました。

東京国立博物館 学芸員・皿井舞氏

ツアーには、東京国立博物館の仏教彫刻を専門とする学芸員・皿井舞氏と、上野の寛永寺僧侶である石川執事をゲストに、それぞれの観点で文化財を掘り下げて説明する内容となりました。ツアー後は質疑応答やツアー時に解説できなかった箇所などさらに深く理解を深めるレクチャーも用意し、日本文化における海外の方々へのアプローチの現状や今後の課題について意見交換を行いました。

上野ナイトパークコンソーシアムのウェブサイト制作

本事業の情報発信基盤の1つとして、上野公園の夜間利活用の促進を図るための活動体である上野ナイトパークコンソーシアムのウェブサイトを制作し、団体の活動の様子などをまとめていくサイトを制作しました。

▼上野ナイトパークコンソーシアムのウェブサイトはこちら

また、ウェブサイト内のコンテンツの1つとしてポッドキャスト(詳細は後述)を開設し、若い人達にも上野公園や上野公園に点在する各文化施設に対して興味関心を持ってもらうコンテンツも制作しました。

ポッドキャスト「10代ミュージアムのよるラジオ」企画制作

上野公園や上野公園周辺に点在する文化施設に対して、若い世代に対するコミュニケーションの一環として、ポッドキャスト配信サービスSpotify、Apple Podcast などに、ポッドキャストコンテンツ「10 代ミュージアムのよるラジオ」を制作、配信しました。

ポッドキャストの企画パートナーとして、10代のためのクリエイティブスクールを企画運営する「GAKU」と連携し、10 代のモデレーターが各施設の学芸員や研究員と対談するコンテンツとなっています。

写真:川島彩水 (左)聞き手:佐藤海さん、(右)⽮部淳さん(国立科学博物館・地学研究部 生命進化史研究グループ)

本事業内では、国立科学博物館地学研究部生命進化史研究グループの矢部淳氏をゲストに、当時開催中であった企画展「メタセコイア」の展示内容のみならず、研究者個人にフォーカスをし、研究テーマやその専門領域にたどり着いた経緯などこれまでの研究者人生を振り返りながら、研究に携わること、自身の興味関心や好奇心を追求することの価値、美術館や博物館に携わることの意義や魅力について語っていただきました。

収録時の様子(写真:川島彩水) 

▼Spotifyのリンクはこちら

収録日:2021年2月22日(月)
会場:国立科学博物館・企画展「メタセコイア -生きている化石は語る」展示会場内
ゲスト:⽮部淳さん(国立科学博物館・地学研究部 生命進化史研究グループ)
聞き手:佐藤海
写真:川島彩水 https://kwmiz.tumblr.com/me
制作:GAKU https://gaku.school/
音楽:suke akaike https://www.instagram.com/sukeapegoat

新型コロナウィルスの流行前に実施予定だった企画も

実は、この「博物館・文化財等におけるナイトタイム充実支援事業」の一年前、私が事務局を務める東京文化資源会議では、同じく文化庁より日本博を契機とする文化資源コンテンツ創生事業(文化資源活用事業補助金)が採択されていました。

「日本博」とは、東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会を契機に「日本の美」を国内外へ発信し、次世代に伝えるための取り組みで、その一環として文化資源を活用したコンテンツ創生への助成金を受託し、上野公園を舞台に、東京国立博物館や国立科学博物館、東京都美術館といった上野公園にある文化施設と連携した一大アートイベントや様々なプロジェクトを実施する予定でした。

しかし、まさに実施日である2020年3月上旬の直前に新型コロナウィルスが流行し、大型イベントの開催自粛によって企画が中止となったという経緯があります。

そうした経緯から、今回の「博物館・文化財等におけるナイトタイム充実支援事業」では、実施できなかった企画の一部を踏まえながら、とはいえ新型コロナウィルスが依然として流行するなかにおいて、以前のような企画が難しいことを踏まえ、コロナ禍においてできうる限りの対策などを踏まえた取り組みへと修正することとなりました。

一方、こうした文化庁による助成金をいただき活動をおこなったことで、関係各所との関係構築や、上野ナイトパークコンソーシアムに参画いただいている企業の方々とも密に連携を取ることができたのは大きな実績です。

引き続き、上野ナイトパークコンソーシアムでは、上野公園を中心に上野地域一帯のステークホルダーをつなぎながら、上野公園の夜間活用のみならず、上野地域一帯の新たな文化的側面に光を当て、点在する歴史・文化資源を活かした取り組みを実施していく予定です。

また、こうしたまちづくりに関連した産官学民の連携コンソーシアムのプロデュースや企画運営、ディレクションに関して、いつでもご相談ください。


事業採択元:文化庁(博物館・文化財等におけるナイトタイム充実支援事業)
事業パートナー:東京文化資源会議、上野ナイトパークコンソーシアム(構成団体:東京文化資源会議(事務局)、朝日信用金庫、合同会社quod、株式会社JTB、株式会社大丸松坂屋百貨店、株式会社竹中工務店、株式会社丹青社、株式会社電通、野村不動産株式会社、株式会社トーキョーベータ
事務局:江口晋太朗(トーキョーベータ)

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江口晋太朗 | SHINTARO Eguchi
今後の執筆活動や取材、リサーチ活動として使わせていただきます。