協同組合こそ、現代の地域のインフラになりうるネットワークを持っている
先日、Twitterでこんな投稿が流れてきました。
農薬で作られた野菜よりも、無農薬や有機農法で作れた野菜のほうが環境保全や身体的な健康面において良いとされていることは、多くの人が認識していることだと思います。
とはいえ、有機農法で作られた野菜やオーガニック製品は一般的に値段が高く、なかなか日常的に購入するのは難しいのが現状です。とはいえ、何を買い、何を食べるか、という日々の選択によって、私達の身体や社会はつくられているはず。経済的に余裕のない人にとっては、有機製品を購入したほうが良いと分かっていてもなかなか手が出せず、リスクがあると分かりながら安価な商品を購入せざるをえない状況です。
フランスでは、オーガニックや有機商品(bio)に対する意識が高く、フランス人の88%が過去にbio商品を購入した経験があり、また、71%が自分と家族の健康、そして地球環境への配慮のため、月に1回以上bio商品を購入し、国民一人当たりの平均購入額は年間136ユーロと日本の10倍以上も高いというデータがでています。
特に若い人のbioへの関心は高く、世代を超えて食や健康に対する意識の高さがあるのがフランスの特徴です。政府も国をあげて有機農業への転換を後押ししています。それがゆえに、今回の新型コロナウイルスによるパンデミックは、社会全体に経済危機をもたらし、職を失った人や将来の経済状況などを鑑みるなかで、なかなか、有機製品を買いたくても買えない人が出てきている、ということでもあります。
経済的に裕福な人とそうでない人における健康リスクの差は日本でも問題視されており、貧困層における健康面の課題に対して取り組むソーシャルビジネスも展開されています。
そうした問題の支えになっているのが、動画でも紹介されているVRACです。VRAC(Vers un Réseau d'Achat en Commun)は、いわば日本でいうところの生協(生活協同組合)のようなもので、地域による共同購入による仕入れや仲介をできるだけ減らしたマージンカット、配送ではなく店頭などで配布するなどしながら、できるだけ売値を安くして消費者に有機製品を届けています。2013年に設立され、各地で活動が行われています。
もちろん、ただのスーパーではなく、生活協同組合としての寄付者や事務局、ある程度の規模の発注を見込め、それに配布先の場所として機能する学校や大学といった教育施設、その他のソーシャルセクターらとの連携のもとで活動が成り立っています。例えば、活動を支えるために、コミュニティ財団やNPOらからの助成金や支援を受けながら運営しています。
地域住民による共同運営のスーパーマーケット
こうした地域密着、地域コミュニティの核となるスーパーマーケット的な場所は他にもあります。イギリス・ロンドンでは「The People's Supermarket」という場所があります。(『シビックエコノミー』で事例として取り上げています)
the people supermarketは、会員制(会員にならなくても買い物はできる)スーパーで、年会費を払うと割引が受けられます。その代わり、会員になると月に4時間のボランティアが課せられ、それによって人件費の削減に寄与するという仕組みです。
また、販売する野菜などの仕入れ先は定期的な会合のもとで会員内で議論し、特に地域内の農家から仕入れることを前提としています。売れ残った野菜はスーパー内で惣菜として調理や販売することでフードロスをできるだけ減らしたり、健康や食事に関するイベントやセミナーが開催したり、チャリティーイベントなど定期的に地域を巻きこんだ催しを行うなど、地域の人たちによる共同運営で成り立つ組合的なスーパーです。地域コミュニティのハブとなりながら、手軽にオーガニック製品を入手できる場所になっています。
The People's Supermarketの創立者のTED動画もあります。アーサーさんは、都市と農家との関係性が分断されているという問題を根底に、生産者と消費者が共に作り上げる食の場を目指しています。
協同組合組織が地域経済を支える
VRACやThe People's Supermarketのような独自の会員制度や域内の農家との関係構築を行いながら、できるだけ安価にオーガニック製品を手にする環境を作り出そうとする取り組みは他にもいくつかあります。
先のフランスの事例でも、フランス南部では、域内で生産される有機農産物の管理、加工、流通の一元化をするプロジェクトが進行するなど、サプライチェーンマネジメントを地域内で行うことで、地域内の雇用や経済、流通を促進する取り組みが行われています。
こうした取り組みの背景とともに、それらを支える仕組みとして、協同組合というあり方が改めて見直されるのではないかと私は考えます。
VRACでも触れたように、日本では生協が多くの人にとってなじみが深い協同組合という組織形態でしょう。他にも、協同組合という組織形態はいくつかあり、実は、地域金融機関組織である信用金庫や信用組合も、実は、協同組織組合です。
協同組織とは、地域の人たちが利用者・会員となって、互いに地域の繁栄や地域内の経済循環を図るための相互扶助を目的とした組織です。株式会社のような営利企業のように株式分配によって株主に利益還元するのではなく、そこで得られた利益は地域社会に還元することを優先するのが目的です。地域金融機関である信用金庫や信用組合は、協同組合組織の一つであり、預けられたお金は地元企業や地域で活動する様々な団体や個人に利用されています。
地域経済の視点で考えたとき、「漏れバケツ理論」をもとに域内における調達率を高め地域内経済の循環を高めることで、地域再生や地域活性を推進する仕組みが作られます。フードマイレージのような点でみても、域外から仕入れるよりも域内で仕入れることのほうが環境負荷も軽減しまし、輸送コストや商品の新鮮さなどの観点からも有益です。
そして、これらの観点でみた場合、域内経済を支える組織として、改めて「協同組合」というあり方に目を向けるべきかもしれません。世界的にみても、協同組合組織に参加している人は多く、生協のようなスーパーや、日本でいう信用金庫や信用組合のような地域金融機関にお金を預金している人も多くいます。
日本では、生協が協同組合組織としては知られているものの、その背景にある理念を深く知ってる人はもしかしたらそこまで多くないかもしれません。ましては、先のVRACやThe People's Supermarketのような、新たなあり方で地域を支えるエコシステムをつくり出そうとするために、時には、自らで協同組合組織を作るという考えを持つ人は少ないと思います。
ただの消費者にならず、みずから、生産者として参画したり、お金を出資して、The People's Supermarketのような施設や店舗を運営したり、地域金融機関にお金を預け、地域貢献や地域コミュニティを推進する取り組みにお金が流れやすくなったりと、小さなアクションからでも参画できることはたくさんあります。
協同組合組織のような組織や、人びとのつながりや環境保全、持続性を重視する社会的連帯経済といった新たな経済システムが生まれています。日本においても、こうした相互扶助の観点を踏まえながら、地域経済の持続可能な循環のあり方を模索するための仕組み作りをする人を増やしていくためにできることを考えていきたいものです。