見出し画像

わたしの十年に一度の本:40代編

3Fミステリーについて

3Fミステリーということばをご存じでしょうか?ミステリーの中でも主人公の探偵、作者、それに読者層がみんな女(Female)というものです。日本ではそこに翻訳者も加えて4Fミステリーとも言うそうです。もともと私は強い女にあこがれているので、このジャンルはすんなりとはまりました。有名なところではサラ・パレツキ―V・I・ウォーショースキーシリーズ(山本やよい・訳)、スー・グラフトンキンジ―・ミルフォーンシリーズ(嵯峨静江・訳)、パトリシア・コーンウェルケイ・スカーペッタシリーズ(相原真理子・訳)などがあります。
ただ、アメリカでは3Fミステリーなんてくくりはなく、このことばは早川書房さんが作ったみたいです。

1982年にウォーショースキーとミルフォーンという二人の女探偵が颯爽とデビューして一種のブームを作りました。しかし、その5年前にマーシャ・ミュラーという作家がシャロン・マコーンという女探偵を登場させていたのですが、時期尚早だったようで注目されませんでした。82年の女探偵ブームに乗ってシャロン・シリーズも復活しましたが、日本ではあまり人気が出なかったようです。

日本で人気が出なかった理由は、シャロンはお転婆だけどV.I.ほどアクションが派手でなく、キンジ―ほど女っぽい細かさも事件関係者にすぐ惚れちゃう要素もなく、割とどこにでもいる普通の女性だったことも一因かと思われます。しかし、最も大きな要因は翻訳者に恵まれなかったことではないでしょうか。おそらく山本やよいさんにしても嵯峨静江さんにしても、原作が大好きで何が何でも自分で訳さなきゃ!といった心意気で訳されていたんじゃないかと思います。

Edwin of the Iron Shoes

私がシャロン・マコーンに初めて出会ったのはアンソロジーの中でした。先ほども述べたように等身大のアラサー女性で冷静なところも気に入りました。いくかの短編にふれて、やはり長編が読みたくなったのですが、そもそも長編があまり出版されていなくて、少ない作品群がほぼ絶版状態。なかなか入手困難な中で第1作『Edwin of the Iron Shoes』のペパーバックを手に入れられたので、まず英語で読んでみました。

やはりV.I.シリーズのほうがスケールが大きくて万人受けするだろうな…とは思いましたが、シャロンのキャラやストーリー全体がミステリーにしてはやわらかい描き方をされていて、昔テレビで見たキー・ハンターやプレイガールのようなエンタメ色も強く面白かったです。その後原作と徳間文庫から出ている翻訳も読んでいきました。ただ、本によって翻訳者が異なるのは同じキャラクターの印象が異なってしまったり、シリーズ物としてはマイナスですね。

『Edwin of the Iron Shoes』の翻訳『人形の夜』を読んだ時は正直言ってがっかりしました。原書を先に読んでしまうと、どうしても翻訳に違和感を感じるのは致し方ないことなんですが、これなないだろう、いっそ私が訳したほうがいいんじゃないか?なんて恐れ多くも思ってしまいました。小泉喜美子さんって大御所の翻訳者さんで凄い人のようですが…どうやらこの作品を好きではなかったみたいです。駆け出しの翻訳者さんでいいから、この作品面白い!このシリーズずっと私が翻訳する!という意気込みのある人の手に渡っていたら、扱われ方もずいぶん違っていたんじゃないかな?なんて思います。

シャロンシリーズの初期の作品はエンタメ色が強いのですが、シリーズが進むにつれて読み応えのある内容になっていっている気がします。シャロン自身がネイティブアメリカンのワン・エイト(1/8の混血)なのもあって、ベトナム人、中国人などの移民問題、マイノリティーの問題、それから家庭の主婦や30過ぎて独身でいる女性が自分の置かれている現状に対する不安などの諸問題がやんわりと提示されているところも魅力です。

今回はとてもマニアックな投稿になってしまいました。シャロンの個別の作品を紹介できる機会があれば、スキはもらえないと思いますが、やってみたいです。私にとっては、この本を読んだことによって洋書を気楽に読めるようになったことと、みんなが知らない本を私だけが知っている…といった妙な優越感を味わうこともできました。

いいなと思ったら応援しよう!