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線香花火


私には、ほぼ霊感はないものと思っている。
昔も、今もである。


昔の職場の仲間から夜のお出掛けオファーの
声が掛かると、その当時は予定が空いてれば
共に出掛けてたものである。そのオファーは
アンチパワースポットに行こうと誘われて…


アンチパワースポットとは言い換えてるだけ
の私の言葉で、ホラースポットの事である。


女性たちは、スピリチュアルパワーの場所を
求めて、そのパワースポットのお裾分け等を
貰いに行くのだが、こちらを健全な考え方と
するならば、ホラースポット巡りなどは世間
一般からすれば、不謹慎行為に分類される。


私が生まれて初めて映画館に、母の姉により
行った映画というのがホラー映画だった為か
オカルト系やホラー系の映画は総じて観る程
ホラー映画マニアであった。ヴァンパイアに
ゾンビにエイリアンにゴースト、そんな映画
をポップコーンを齧りながら、先に死んでく
登場人物の順序を想像してみたり、反面教師
ではないが登場人物のバッドチョイスを見て
自分だったらこの状況でどう的確に判断対処
して、生存率を上げるであろうかなどの分析
をしながら、映画を観る様になっていった。


まあ、そんな訳で深夜2時過ぎから丑三つ時
には、犬哭トンネルや笠木ホテルの廃墟等の
現地を調査。私は撮影担当でカメラやビデオ
を回すが、これといって何も映らない。


何にも感じぬし怖くも何ともないと私が言う
と、じゃあ、この場で一人で撮影してみろよ
言われて真っ暗闇の中を目を凝らしながらの
撮影、やはり何も見えないし、何も感じない。
15分位で撮影を切り上げて、じゃあ次は誰
がいくのか私が訊くと、あんな薄気味悪い所
にひとりでなんか行けるかと他の面々。この
時点で私には霊感はない、のはお分かり頂け
たであろう。



一時、ずっと通い詰めていたバーがあった。
十三の自宅に一番近いバーである。とある事
があって今はその店に足を踏み入れる事など
もう無いが、その店は色んな職の人が出入り
していて面白い話も聞け、気に入っていた店
であった。実は私は酒を飲まない。元々酒が
好きでもなく、自分が酔っている状況自体が
不明瞭な空白時間になるのが嫌なのである。


もちろん、他のお客さん達は普通に酒を飲み
一滴も酒を飲まない私と会話をしてくれた。
とある英会話スクールの女性の先生とも友達
になっており色んな会話もした。そんな彼女
は厄介なボーイフレンド(外人さん)がいて
感情の起伏が激しくて機嫌が良い時はいいが
不機嫌だと部屋に鍵かけて入れなくしたりと
面倒な事が多いと言う。それも転がり込んだ
のはその男なのに家賃を払ってる彼女が部屋
に入れないなんて理不尽なことはない。私は
そんな彼氏なら別れたらと、その同棲相手を
追い出す事を勧めた。翌日もそのバーに行き
私は定位置に座る。


その英会話の女先生の横に、見知らぬ女性が
座って厄介な同棲相手の話をしている会話が
聞こえてきた。

その男性との間での未来は貴女には良い事は
なく、直ぐに別れなさい。貴女のポジティブ
な生き方すらも翳ってしまいますよ。とその
歳の頃で60代後半位の女性が諭している。
英会話の女先生の手を持ちながらの説得には
なんだか胡散臭い宗教かぶれの人みたいだな
と私は感じた。その女性がトイレに立った。
英会話先生に『今の誰?』と訊く。

『んとね、なんか色んなものが見えるらしい
のね。前もこの店に来ててそんな話になって
凄いなって思ったけど、今日は浮かない顔を
してたら、ボーイフレンドの事など言っても
無いのに指摘されて、それで今まで話してて
凄いなって…なんかやっぱりそう言う能力を
持つ人ってこの世の中にいるんだなって。』

その彼女がトイレから出てきて、その会話は
ストップ。私はまた烏龍茶を飲み始めた。

そのスピリチュアルな能力を持つその女性が
私へと向く。『初めまして、こんばんは。』
挨拶されたので私も挨拶を返す。さっきまで
斜め後方でしか見てなかった彼女はちゃんと
した女性に見える。小綺麗だし表情も良い。
その女性は私に向かって言った。

『可愛い娘さんをお連れになっているのね』

『えっ、可愛い?娘さん?』

私は独り身だし、子供はいない。女性を妊娠
させたりした事もない身、その私に娘さんを
お連れって何?となったのである。

『貴方には見えないかも知れないけど、貴方
にはね、可愛らしい女の子がずっと、憑いて
いるのよ』

初対面のその年配女性は、口元に上品な笑み
を浮かべてそう、私に言った。見た目は普通
なのに、こんな話を面と向かって言ってくる
女性は危ない者に違いない。私は微笑み返し
『それは嬉しい限りですね』と言ったあとに
『トイレに行きますね』と断りを入れて席を
立つ。

もちろん、本当に尿意を催してた訳ではなく。
そんな宗教まがいの会話を打ち切る為である。

無駄な水を流して、そのトイレを出る。その
女性は再び英会話の女先生と話している間に
私は勘定を済ませて、店を後にした。そして
その時の会話の事はもうすっかり忘れていた。
その女性を見たのは先にも後にもその時だけ
の事となったからである。

そのお店にガハハハと豪快な笑い声を上げる
女性が常連となった。会話好きで豪快に笑う。
元々が新地(東京での銀座)のママをされて
いた経験もあり、その体験談など豪快な話を
聞かせてもらい、面白い方である。歳の頃は
七十代前半位かと思うが、女性に年齢を聞く
のは失礼な事と知る私は確認はしていない。

「酒一滴も飲まんのに、あんた毎日来てるな、
楽しいんか?ガハハハハ」

と、まあ、こんな感じなのである。

「でな、前からあんさん、気になってたんは
娘さんがあんたの近くにな、いつもいるんよ。
ずっと言わんかったがな、ガハハハハ」

ホラー映画は一番の専門だし、アンチホラー
スポットも何度も行ってる私だが、前のあの
インチキっぽい霊媒師風の女性から言われた
言葉を再び浴びせられ、流石の私もちょっと
だけ、冷やっとした。

今度は私も真面目である。新地で色んな人種
を見る内にその人のそういう面も見える能力
が自分にある事に気付くも、それをいう事が
自身にマイナスになる事からあまり見えても
それを言わない様にしていたのだと言う。

「で、私に憑いてる女の子って幾つ位の女性
なんですか?」

「せやな、歳の頃はな、十歳は、いってない
感じやね。浴衣を着とるよ」

「浴衣、ですか?」

「うん、着とる、着とる。あとな、その手に
はな、線香花火を持っておるな」

「線香花火ですか…?」

「あんさんな、この娘さんが線香花火しとる
の横で見てらっしゃったろ、それでなついて
ずっとついて来ておるんやな」

「線香花火をしているのを私が見ていたって
言うのですか?この私が?」

「この子はな、線香花火をしとっても誰一人
それにはな、付き合ってくれずに寂しかった
んやろな。それをあんさんだけは付き合って
あげたのが凄く嬉しかったんじゃろな」

線香花火、線香花火…それを一緒に見た?
いつ、どこで、ええと…えっ、あっ、まさか
アレか!アレは線香花火の光だったのか!!

過去の出来事を振り返り、そういう事象など
あったのかと、記憶を巡らせて辿りついた…


私の会社の寮は箕面の方にあり、その当時は
新大阪に事務所があり、毎日チャリで会社に
通っていた。会社にスーツやカッターシャツ
を置き、チャリでは、短パンとTシャツ姿に
ウエストバッグを腰につけてと言う身なりで
会社に通っていた。行きも帰りもチャリでの
全力疾走と大汗をかくのでこんなスタイルで
通勤していたのだった。

ある日、チャリが会社に到着寸前でパンクし
歩ける距離を手押しで会社に行き、その日は
仕事も遅くなりチャリなしで帰ることに。
パンクはまた明日に直そう。新大阪から三国
へと歩いて帰る。私は毎回、道を変えるのが
好きである。その日はチャリはなくて敢えて
違う道をトボトボと歩く。人気(ヒトケ)の
ない薄暗い路地を歩いて行く。右手には高い
塀が続く。左手には工場らしい建物であるが
夜22時を回っているこの時間、照明も完全
に落ちている。トボトボと歩いていると前方
にはタバコの火らしいものが見える。はて、
左のあんなにも高い塀から投げられたもので
もないだろうし、左の工場もひっそり静まり
かえっている。この道をトボトボ歩いている
間、誰ともすれ違ってないし、前方にも人影
もない。変だよな。

そのタバコらしき火の前まで行く。うわっ、
何だよコレ、浮いてるぞ。私はしゃがみ込み
その宙に浮いたままの不思議な光を見つめる。
タバコの火とは完全に違う。地面からは10
センチ位のとこでそれは光り輝いている。

私はこの超常的な光景に恐怖は全くなかった。
むしろ、美しい、なんて柔らかく美しい輝き
なんだ。それはゆっくりと光を失っていった。
そして街灯の間隔の間に位置してた謎の光が
消えた後には闇が戻った。

なんかいいものを見たな。とても得した気分
で、私は嬉しくなって立ち上がって、また、
歩きはじめた。5、6歩程だったろうか私が
歩いた後から、アスファルトを蹴って何かが
背後から急速に近づいてくる気配を感じた。
タタタタタッと言う感じである。それはもう
まるで犬や猫、イタチか何かの様な足音にも
聞こえた。私がその正体確認に振り返ろうと
した、その瞬間、背後にある腰につけていた
ウエストバッグに足がかかり、背中にドンッ
と衝撃を感じた。私は背中に手を回したが、
手が何かを探り当てる事はなかった。この話
は会社の寮の連中に話したが疲れてて勘違い
でもしたのだろうと皆からは一笑された。


後日、チャリのパンクを治した際に不思議な
現象があったその道を走りながら、立ち漕ぎ
で背伸びをしながら塀の向こうを確かめると
卒塔婆が見えた。そうか、ここは墓地の高い
塀だったのか。と、そんな記憶も私の引出し
の奥深く、埋もれたままだったものである。


二人の女性から、娘さんが私に憑いてるとの
指摘なくば永遠に忘れたままになってた記憶。


私は、もう20年以上も前のその話を、その
元新地のママであった女性に思い出しながら
打ち明けた。

「ええ事をあんた、したやんか。女の子もな
その場所で何度も誰かに相手をして貰いたく
線香花火をしてて、誰もそれをしてあげんの
をなあんさんがしてな、それで慕ってあんた
にずっと憑いておるんやな」

「そうですか。あんなにも前の事なのに…」

「あ、心配せんでええよ、その娘さんはな、
あんさんに憑いてはいるけど一切の悪さとか
せえへんし、かと言って福の神みたいなもん
ではないから何かの運勢が上がる様な事とか
ない。でも、あんさんの事を好いちょるよ。
だから憑いたままになっとるんやな」

「随分、前の人なんでしょうか?」

「多分、うちよりもずっと前の先輩になる。
ガハハハハ」

「名前は、分かるんですか」

「いや、うちは見えるだけで会話は出来ん、
だから名前は分からん。まあ、病気かなんか
で亡くなったんか、戦争で亡くなったんかは
ウチには分からんがな」

「そうですか、それは残念ですね…」

「まあ、ええやんか。寂しかったひとつの魂
をあんさんは知らぬとは言えど、救いの手を
差し伸べて救ってあげた訳やからな」

「この場合、救いの手だったかどうかです。
私は謎の火を確かめたに過ぎませんからね」

「まあな、あんさん以外の人がそれを見たら
薄気味悪いと逃げ出したろうし、ウチでもな
そんなん見たら逃げるわ」

「まあ、結果論ですが、それで娘さんがいい
というのならいいのかな」

「それでええ」

と、言う訳で無茶苦茶長い話になった。
最後まで読まれた方、ひたすら感謝である。


季節外れのホラー話みたいだが、前のブログ
の閉鎖で、本日をもって文字データも画像も
電子の中で消えてしまう訳である。今もまだ
私に憑いているであろう娘さんの事をブログ
終了の道連れに消されたくなかった記事ゆえ
ここに記する事としたのだ。


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