見出し画像

天蚕 その糸で紡がれる着物『大島紬 』


天蚕 (テンサン)


天蚕(テンサン)とは、日本をはじめとする
アジアの一部に生息する野生の蚕(カイコ)
の一種である。一般名は『山繭』(ヤママユ)、
もしくは『山繭蛾』(ヤママユガ)と呼ばれて
いるとても大きな蛾(ガ)である。


チョウ目、ヤママユガ科、ヤママユ属


私は月に一度か二度、実家に帰っては両親に
顔を見せる為に帰るのだが、土日が特に色々
と忙しい身なので、金曜の晩に仕事終わりに
実家に行き、翌朝の早い時間に実家を出る。


玄関を出て見送ってくれた母が『わっ!』と
背後で大きな声を上げたので見ると、大きな
蛾が玄関のタイル貼の地面にいた。


なんと美しい蛾の姿であろうか、だが撮影を
するにはこのタイル貼りが気に食わないなと
母にコンビニ袋を用意して貰い、それを裂き
それで上から優しく包み込み捕獲してやる。
羽や鱗粉などを痛めない様に慎重に包み込み
庭にある灯篭(トウロウ)の上に置く。直ぐ
コンビニ袋を外すと、あっという間に飛んで
行ってしまうので、蛾を少し落ち着かせる。


これは以前に同じ様なシチュエーションで
逃げられた事があり、同じ失敗はしたくない
からである。羽の一部は傷付いてはいるけど
それ以外は綺麗な状態にある。コンビニ袋を
ゆっくり上へ上げていく。蛾は落ち着いてて
逃げないと判断した。コンビニ袋を離すと
じっとしていて正解である。なんと美しい。


母親も美しい蛾だわと、喜んでいた。この私
が植物や虫などに興味を持つ様になったのは
この母の影響である。庭にある花の名を次々
と教えてくれたり、虫に対しても全く動じる
事も怖じけづく事もない。私が撮影したして
いる時に、大きさが解るからと、指を添えて
くれた。


朝の6時半から、蛾を目の前に大喜びしてる
親子など、あまり見られない光景だろうなと
そんな状況がちょっぴりだが、可笑しい。


山繭(ヤママユ)は、口を持たない。つまり
成虫になったこの蛾は、幼虫の時にたらふく
食べた葉の栄養だけで成長して、4回脱皮、
繭を作りそこから孵化してからは、ただただ
次の命を紡ぐ為のパートナーを探す事がこの
成虫のオスメス共通の目的となる。


その大型の分厚い4枚の翅には、それぞれに
ひとつつずつ大きな黄茶色の目玉状の模様が
あるもので、これは鳥類に襲われないための
ギミックである。このヤママユガは有毒では
ない事から、天敵への対策としてこんな目玉
模様が大きく羽根に乗っているのだ。


撮影しながら、この目玉模様が妖怪のそれに
見えてくるほどのインパクトである。


この『山繭』をタイトルに於いて『天蚕』の
名で紹介しているが、その由来は美しい繭に
ある。その繭の色や光沢が天の星や空などを
思わせる程に美しいもので青みがかった緑色で
のそれは光に当たると独特の光沢を放つもの。
その美しさから『天(空)の蚕』と名が付く。


天蚕は通常の家蚕(カイコ)が家畜化されて
いるのに対し、野外で育つ天然の蚕である。
その繭から作られる絹糸は非常に丈夫であり
古くから高級な織物に使用されてきた。特に
天蚕の繭から紡がれる絹糸は「天蚕糸」とも
呼ばれ、希少価値が高く、日本では工芸品や
着物などに用いられることがある。


天蚕は桑の葉ではなく、ブナ科やクヌギなど
の広葉樹の葉を食べることも特徴となる。





さて、遡ること今から2年前の2022年の
11月に所属するカヌーチームの強化合宿と
して奄美大島を訪れた際に、地場産業である
『大島紬』(オオシマツムギ)の工房を訪れた。
そこは『みなみ紬』(ミナミツムギ)である。


『大島紬』という着物の工房なら、普通ならば
旅行に来た女性達が見学するコースみたいな
ものである。そこにむさ苦しい男集団ばかり
の見学訪問に対して、寡黙な雰囲気の匠の様
な方が、少しガッカリされた様に思われた。


そんなカヌーメンバーの中で、目をキラキラ
させたのが私で、着物そのものより蛾の蛹に
興味を持ったのだが、そこでその匠とも話が
盛り上がり、繭の本までも取り出して実際に
色んな蚕の繭を見せて頂いて解説までもされ
日本最大の蛾『樟蚕』(クスサン)の繭など
も見せて頂いて、最後にはこの『天蚕』の繭
を持っての嬉しそうに微笑む姿まで撮らせて
貰ったのであった。


一般の家蚕(カイコ)の糸は細くて艶がある。
天蚕(テンサン)の糸は太くて丈夫で艶消に
着物が仕上がるのだという。そして天蚕の本
にもなったのだと教えて貰ったのである。


私は大阪に戻ってから『繭ハンドブック』を
直ぐに購入したのであった。



この話は『大島紬』の話へとつづく。


■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■

和名 山繭 (ヤママユ)
   山繭蛾 (ヤママユガ)
   天蚕 (テンサン)
洋名 ジャパニーズ シルク モス
   (JAPANESE SILK MOTH)
   ジャパニーズ オーク シルク モス
   (JAPANESE OAK SILK MOTH)
学名 アンセラエア ヤママイ
   (ANTHERAEA YAMAMAI)
分類 チョウ目、ヤママユガ科、ヤママユ属
種類 蛾(ガ)の一種
全長 前翅長70〜85mm
分布 日本(北海道〜沖縄)の広葉樹林
食性 幼虫(カシワ、ナラ、クヌギ、クリ、
   カシ、ミズナラ、コナラなどブナ類)
   成虫(口がない為、絶食)
出現 成虫 8〜9月

■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■

#山繭
#ヤママユ
#山繭蛾
#ヤママユガ
#天蚕
#テンサン
#ジャパニーズシルクモス
#JAPANESESILKMOTH
#ジャパニーズオークシルクモス
#JAPANESEOAKSILKMOTH
#アンセラエアヤママイ
#ANTHERAEAYAMAMAI
#大島紬
#オオシマツムギ
#みなみ紬
#ミナミツムギ
#繭ハンドブック
#天の蚕が夢をつむぐ

■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■

繭ハンドブック

■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■

天の蚕が夢をつむぐ 大島紬ものがたり

■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■

■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?