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クバ 田中一村がその絵に残した美しきもの

久葉 (クバ)


沖縄の久米島にて、陶器にてシーサーを作る
『やちむん土炎房』の工房の中には、陶器製品
の売物のシーサー像や食器類が並らんでいる
中で一瞬、私の目を引いたのはこの立派な葉
の姿であった。


何と大きく美しい葉っぱだろうか!


やちむん土炎房の店員さんにこの葉のことを
尋ねてみたら、この葉は『クバ』という植物
のものなのだという。この名前は初めて聞く
名前だなとIPHONEに記録として残す。




『こちらのも全て同じくクバという植物の葉
を加工して作ったもので、『クパ笠』という
名で呼ばれる、沖縄ならではのものです』
と教わる。私は俄然、このクバという植物
への興味が湧いて見てみたいなと思ったら


『何なら工房の庭のあちら側に植ってます』
と言われて向こうを見ると、確かに巨大な
円形の葉が見えていてこれは素晴らしい。
普通なら、加工されたもので終わるのだが
その植物そのものも撮影できるなんてもう
神待遇である。そして、この記事も最後に
その植物そのものの写真が揃って、初めて
成り立つというものである。


では、この植物の解説を始めようと思う。
ここから先の画像は拾い画像となる。


一般的な名称で、この樹木は檳榔 (ビロウ)
と呼ばれる、ヤシ目、ヤシ科、ビロウ属に
分類されている高木で、東アジアの亜熱帯や
沿岸部近くに自生するもので、日本国内では
四国南部、九州南部、そして琉球諸島全域に
自生している。沖縄では街路樹や公園樹等に
利用されている。


その葉は、棕櫚(シュロ)のものよりも葉が
広くて大きく育って、直径は1〜2mと立派
なもので、掌状に広がり深く裂け、その葉先
も細かく深く裂け、垂れ下がるのがこの特徴
となっている。葉柄は2列に並ぶ棘がある。


この樹木そのものが、昔の人の生活に役立ち
幹は建築資材としても利用され、非常に丈夫
でしなりがあった事から武術での六尺棒にも
使われていた。


大きな葉は編み込んだり、重ね合わせたりも
する事で水汲みのバケツや、杓(ヒシャク)
にまでなり、葉の特性である防水性や繊維の
頑丈さがあっての利用方法だったもの。




この生葉は、若葉だと食用にもなり、仄かに
甘さもある為、『味甘さ』(アヂマサ)という
古名がついていたとされる。難しい漢字表記
では『阿遲摩佐』が使われる。


クバ葉は、生葉を畳の下に敷いたままに広げ
乾燥させると、団扇(ウチワ)としても利用
が出来るほど、繊維が強く丈夫なものであり
やちむん土炎房に飾られていたのは、そんな
団扇の原型のもので飾り用だと推測される。
実際に団扇として利用する場合は周辺の葉先
の尖りを押さえ込む為に周囲ぐるりを取囲み
加工したものなどもあり、とても美しい。



クバのこの葉を利用して作られた笠のことを
久葉笠(クバガサ)と呼び、用途毎に形状が
違うものとなっている。農作業向けのものは
『畑人笠』(ハルサーガサ)と呼ばれるもので
先端が尖った幅広の三角帽子状の笠となる。




海作業向けの『海人笠』(ウミンチュガサ)は
先端が平で笠自体に厚みがあるが、縁周りが
狭く作られており、小船に浸水してきた海水
を汲み出すなどの用途にも使われたとされる。


久葉蓑(クバミノ)は、野良着は冬暖かくて
夏は涼しく、肌触りもよく、風通しもよいと
防暑、防寒、防雨、と三拍子が揃った優れた
アウターウェアだったのである。


このクバの葉の形は、扇の原型を持つもので
扇とは風に関する呪具とされ、風水上からも
神聖なものとされていた事から沖縄での御獄
(ウタキ)と呼ばれる神聖な場所でも、神木と
して崇められている。以前に訪れたそんな場
においても私はこの樹木と遭遇していた。


樹高は高いものでは20mと高くそびえ立つ
クバは、神の天からの昇降する物とされてて
葉切りは午前中のみで、葬儀の時だけを例外
とするものとされていた。


亡骸を仏間に安置し、部屋を仕切り布で囲い
季節を問わず、生クバの小扇を持ち、邪霊を
祓うお守りととなっていたという。

沖縄でこの葉が『久葉』と呼ばれているのは
元々が常緑樹で青々としている特性もだが
道具として使われる際にも、その葉が長期間
持続して使えるほど丈夫である事に由来して
いるのである。


タイトルにも書いた田中一村の絵の中でこの
クバが美しく描かれているのがこちらの絵。
以前にも琉球浅葱斑(アサギマダラ)の時にも
紹介した絵であるが、鬱蒼と茂った森の中に
立ち並ぶクバが、その葉先が折れている表情
がとても良く葉の美しい光沢感も見事である。



この絵についての解説は、これに終わらず三度、
登場をさせる予定となる。


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和名 檳榔 (ビロウ)
   枇榔 (ビロウ)
   蒲葵 (ホキ)
   久葉 (クバ) ※沖縄名
   阿遲摩佐 (アヂマサ) ※古名
   味甘さ(アヂマサ) ※古名
洋名 ファン パーム
   (FAN PALM)
学名 リビストナ チネンシス
   (LIVISTONA CHINENSIS)
分類 ヤシ目、ヤシ科、ビロウ属、ビロウ種
種類 常緑高木
樹高 5〜20m
開花 4〜5月
花色 黄緑
花径 2mm
原産 日本 (四国南部、九州南部、琉球諸島)
   東南アジアの亜熱帯地方
言葉 あなたを見守る
撮影 2024年11月18日
場所 やちむん土炎房

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