【毎週ショートショートnote】お題:ひと夏の人間離れ(700文字)<動物園>
大学で演劇サークルの僕は、先輩に高額バイトを紹介された。仕事内容は秘密するのが条件。連れてこられた所は「動物園」であった。
「君はパンダをやってもらう」
飼育員の仕事かと思ったが、支給された制服は「パンダの着ぐるみ」であった。
「いやー。ポンポンが療養中なんだよ。夏休みは稼ぎ時だからね。」
「えっ!パンダになるんですか」
「バレたらクビだからな」
檻の中で必死にパンダの演技をやった。タイヤで遊んだり、ササを剥いて食べる仕草をすると客が「かわいいー」と喜んでくれた。
<その時、場内アナウンスが流れた>
「世紀の対決!パンダVSライオン」をお楽しみください!
そんなこと聞いていない。
隣の檻が開くと、獰猛なライオンが飛び掛かってきた。体を押さえられて、もう食べられると観念した時、ライオンが僕の耳元で囁いた。
「安心しろ 俺もバイトだ」
ライオンは先輩だった。パンダである僕が、カンフーのポーズをとった時にライオンが逃げ出して対決が終わった。
もう無茶苦茶だったが、観客は大喜び
ひと夏のバイトも終わり、僕は社会人となって忙しい毎日を過ごした。僕は上司やクライアントと衝突してばかりで鬱になっていく。
動物園に来ていた。
少しでも心を休ませたかった。
檻の前でぼんやりとゴリラを眺めていると、ゴリラが僕に手招きをした。愛嬌のあるゴリラで、この動物園の人気者らしい。
「よぉ、久しぶり。元気にしてたか?」
ゴリラは先輩だった。
「社会で自由とか、自分らしさって何ですか!先輩は檻の中でゴリラを演じて幸せなんですか?」
「俺はいつも自由で自分らしいさ。何故、お前は演じてないんだ?」
このショートショートの原型である近代落語「動物園」のオチは、「俺もバイトで」終っています。
私は大学時代に学生落語家として、公民館や老人ホームで、落語「動物園」を演じたことがあります。
面白い話なのですが、社会人になってから思い出した時に、オチに違和感を感じる様になりました。
もう少し続きがあって良いかもしれなと思い、今回のお題に便乗した形で新しいオチを付けた話にしました。
長文になってしまった・・・反省。
落語「動物園」と同様に楽しんでいただければ幸いです。
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