短歌ネプリ「月九」第4号感想
第4回っていう中途半端なタイミングではあるけども、月九の評っていうか感想を初めて書きました。
Twitterに流した時は「えっ、どんな歌なの!?めちゃ気になる!!」っていうくすぐりを残すために、あえて引用しないスタイルで「何首目」としか書かずに流したのですが、もう第5号がリリースされたので、そこんとこをオープンにしました。
中身は一緒だけど、引用付きな分もうちょっと読みやすくなってるかと思います。
これはこれとして、今月の月九もよろしくお願いします!
◯休み時間に取り残された鬼のままアルコールランプの火を震わす/近江瞬さん
近江さんはノスタルジー感と静寂さの使い方がうまいんですよね!連作3首ともにモノクロっぽい雰囲気は共通してるんですが、いちばんグッときたのはこの2首目です。主体が感じてたであろう心許なさが、結句で更に割増されて伝わってきました。他の人の気配が全くしなくて、さみしい静けさが満ちている空間にいつのまにか連れてかれた感じです。
◯感情を盗作しては意味のない言葉を放つ たぶん笑った/池田明日香さん
連作題の「生活の作法」が効いてるなぁって思ったのが、この1首目。「こういう時、どんな顔すればいいかわからないの…」って言ったのは綾波レイですが、この主体は上手に擬態している。作法さえわかってれば、集団に埋没することなど難しくはない。主体は周りにうまく溶けこんでいるけど、でも話したりしてる内容は上っ面だけだから、実感としていま自分がどういう感情を表しているのかわからない。気の無い飲み会や当たり障りない世間話を、適当にやり過ごしている時のことを思い出します。
◯てづくりのおまるで風をつかまえて いつかしゃがんでしまえるように/御殿山みなみさん
アイテムのチョイスがかわいい。連作中ずっと天気が悪いんですけど(なんか変な表現だ)、なんでか絶望的な感じではなくて、それが面白いなって思いました。感情を表すためだけに天気を悪くしてないっていうか。この3首目の中で一文字だけ「風」が漢字になってて強調されてる分、強めの風を感じました。主体は飛べる、きっと飛べるよ!あと、下の句からほんのりした優しさが漂っていて、御殿山さんぽいなぁって思いました。
◯ワレワレノツクリエガオハ恋人ノ幸福ニノミシヨウサレマス/シリウスさん
恋人と別れちゃったのかな!?って一読して思って、でも読み直して違うのかもって気もしてきました。恋人のために、なんかしかの我慢をしたのかも。愛想笑いなんか断固しないスタイルだけど、恋人のためだからその時だけ主義を曲げたのでは?それって愛だよねーって、にへらにへらしてしまいました。なるべくならハッピーエンドがいいので、恋人を先に進めさせるために無理して笑ってお別れしたっていう説より、こっちの説のほうがいいなぁ。
◯子づくりの「づくり」は作でいいですかまさか創なら許しませんよ/西村曜さん
音は同じなのに、漢字が違うだけで意味合いが全然違ってくるものって探せば色々あるとは思うんですが、この歌には「ほわぁ。。」ってなりました。あと、結句までの話の持って行き方!うっすら漂う緊張感!私は特定の信仰を持っていないけど、神もしくは神に等しいレベルで信じてるものに、うっかり無自覚な人が踏み込んできたときの緊張感って経験あるひとは多いと思うんですよ。それに共通するヒリヒリした空気が歌から流れ出してる感じがしました。
◯実は半分くらいしかわからないまま聞くほむほむが楽しそう/平出奔
めっちゃわかるー!って思った。なぜなら私はまだまだ歌人を知らないし、暗唱できる歌も全然ない。でもできれば短歌の話を誰かとしてみたい。輪の中に入りたいけど、きっかけが掴めなくて、曖昧な微笑みを浮かべて他の人たちの話を聴きながら、脳内に話題に出た歌人をメモしまくってる私。ってとこまで、ぶわーっとイメージできました。ほむほむ、響きからして楽しそうだよね。まさか「世界音痴」の内気な男の人がそんなかわいらしいアダ名で呼ばれているとは思いもしなかった!だから、この歌の主体は私のことだ。いや、実際は違うんだけど。でもそれくらいのシンパシーを感じました。(あーもうまじで短歌のこと勉強しよ)
◯食卓はカンヴァスでした 作品に共感を求めてはだめですか/若枝あらうさん
色彩が鮮やかな歌でした。いろんな野菜使って見た目にも鮮やかで、品数も多い食卓を主体は用意し続けてたんだと思うんですよ。でも毎日ごはん作ってもらうことに慣れてしまったら、感謝の気持ちが薄れてしまう。たぶんそこで無神経なひとことを言われたんだと思うんです(あるある!って机叩いてる人、結構いるはず)。食事は食べてくれるひとのことを考えて作るものだから、踏みにじられたときのショックは想像するにあまりある。静かながら深い怒りと衝撃で指先から急速に冷えていく感じを追体験させてもらいました。重い空気の中、きっと用意された食事だけが鮮やかなんだろうな。
◯作られた平和は殺された心の上に成り立っている/若紫音佳
なんだか中学時代を思い出しました。とりあえず周りに合わせて、浮かないことを最優先にしていた頃のこと。甲本ヒロトの「教室にいるのはクラスメイトであって、友達ではない(意訳。実際はもっとカッコいい感じに言ってるよ!)」を自分に言い聞かせようとしていたけど、なかなか実践はできなかった頃のこと。何があったわけでもないけど、あれは嫌な時代だったな。個性を大事にしましょうって大人はいうけど、「教室」ではそんなことはなかったし。もう私は教室に行かなくて良くなったけど、当時よりも殺される心が少なくなるといいなと思ってる。