短歌ネプリ「月九」第9回感想
9人の歌人による短歌ネプリ月九、今月もタイミングを逃したので、引用ありでnoteを書くことにしました。。
続けることに意義があると思いたい…!
今回の主演(テーマを決める人)は若紫音佳さん、お題は「空」でした。
ぽつぽつと空が泣くのに紛れ込みぼくの涙がバレないように/若紫音佳さん
青春の、綺麗な情景。部活で泣くもよし、恋愛で泣くもよし!若者には笑顔でいてほしい。だがしかし、全力で涙も流してほしい。これは大人の歪んだエゴですが!
それにしても、綺麗に泣いてるなぁ。このあとちゃんと立ち直って、また次の日からがんばってくれそうな、そんか気がします。
夏の死を美化するな いわし雲の下ラムネの氷は静かに溶ける/池田明日香さん
ラムネを氷入りのコップにわざわざ移し替えて飲んでるの、育ちがいいな!って思いました。同時にそれが献杯っぽさを感じさせるワードでもある。だから上の句とうまく繋がってるんだなぁって。夏の死に対する、きっぱりとした哀しみと怒りが歌の底にある。
のこされたくぼみ濃くなる二人掛けソファに強く西陽はさして/近江瞬さん
もういないことしか語られてないのに、ふたりで過ごした長い時間と喪失感がビシバシ伝わってくる。最近私は歌を詠む時に「説明しすぎないこと」をやろうとして、全然うまくいかなくてもしゃもしゃしてるんだけど、成功形のひとつはこういうことなんだろうなぁと思う。想像の余地と背後のストーリー性。読み終わったあと、しみじみとさみしい。
バズってるもぬけの空という誤字の奥さんが逃げたっていう記事/御殿山みなみさん
マクロからミクロへ視点をフォーカスさせていくのが、御殿山さんはうまいなぁと思う。映像でイメージできる。しかも勝手に脳裏に浮かべた映像からユーモアも込みで伝わってくるってすごくないですか??「ふふ」って笑っちゃう。
事情はわからないけど、誰かの奥さんがいなくなったっていう深刻な事態なのに、おかしみがある。どちらにせよ、奥さんがいなくなったのは大した問題じゃないよねって気がします。なにしろ、配信前の校正で誤字に気づかれない程度のニュースだし!
新古品のリュックサックの隙間から重荷になった比喩を追い出す/シリウスさん
「比喩を追い出す」って表現がおもしろいなぁって思いました。ハムスターみたいなサイズの、ちょこまか動く小動物みたい。でも重荷になっちゃったんだねぇ。。新しい生活には不要とされた比喩は、何をどう喩えていたのか。非常に気になります。目を逸らした隙に新しい別の比喩が入りこんでそうで、なんか全体的にかわいらしい歌ですね。
ラーメンのスープを飲めばどんぶりの底から「きみはわたしだ」の文字/西村曜さん
フォーンチューンクッキーみたいなどんぶりだ。食べ物の中から意味深な言葉が出てくる。
ちょっとホラー味もある。スープまで飲み干しちゃうような、最高においしいラーメンを食べ終わって心体ともに満たされたところに、謎のメッセージ!油断したところに、ドンっ!って現れるのはホラーの基本ですよね。おもしろいなぁ。主体が「なんだこれ?」って不思議に思うけども、それ以上メッセージを深追いすることなく、水を飲んでさっさと店を出ていきそうなとこも含めて、おもしろいなぁ。
字がうまい人に空海っすか!って言ってもウケないから気をつけて/平出奔さん
あー、それ弘法大師と混ざってないっすか…?って言いたい。ウケないのはだからじゃない…?って。でももしかしたら、空海も字うまいかも。お坊さんだし、めちゃ写経してそう。そう思って調べてみたら、弘法大師って空海の別名だったんですね!?大変失礼しました…!教養のなさが恥ずかしい。
三首通してポップさが貫かれてて、でも話してる内容は歴史上の人物でっていう重みのギャップが良かったです。
余談ですが、Wikiを読んだら空海はほんとにすごかった。20年の留学予定を2年に短縮して終わらせてたり。
蹴っ飛ばす空き缶さえも見つからない街で大人として生きている/若枝あらうさん
ビジネス街って綺麗ですよね。清掃員のひとたちがいるから、空き缶もゴミも落ちてないことが多い。
でも空き缶を蹴っ飛ばしたいような理不尽なことがたまーにあるのがサラリーマンで、蹴りたい時に空き缶がないことまで込みで、ままならない世の中ですね。。そんな諸々を我慢して飲みこむのが大人。ほろ苦い!でもモヤモヤをストレートにぶつけるんじゃなくて、受け流すテクニックがあるのも大人なので。大人としての生き方の深みについて考えされられますね!