【いつメロ No.1】わたしの進化論
「ねぇ、キリンは何であんなに首が長いの?」
「それはね。高いところにある葉っぱを食べるためだよ」
動物園帰りの親子だろう。小学生くらいの男の子が母親にそう尋ねていた。
そう。キリンはそうやって成長してきたんだろう。自分の願いを次の世代に託し続け、今のように首の長いキリンがあるんだろう。いわゆる進化論というやつだ。
なのに、人間ときたらどうだ。
政治だって争いだって何世代に渡ってもやっていることは同じだ。少しやり方を変えているだけで、キリンに比べたら大した変化ではない。なんと愚かなことか。
そんな御大層なことを思い、高校の頃から履き潰している自分の靴を見て自嘲気味に笑った。「その象徴こそ自分じゃないか」とつぶやきながら。
リクルートスーツを着る日々を過ごす中で、いかに自分が何も変わっていないかを思い知らされた。周りは輝かしい功績を勲章みたいにつけていて、面接会場で一層輝かさせていた。あぁこういう人が社会で求められているんだろうなと勝手に悟り、輝けない自分に居場所はないと勝手に諦めていた。だから、メールで祈られても糧にもならず、ただ無力感を与えられるだけだ。
そんな与えられた無力感を持て余す度に、こうして散歩している。そして、周りの光景に対して心の中で独り言を放っている。分かっている。気づいてる。こんなことしたって何にもならないことは。でもそうしなければ、自分の中の無力感が毒となり、自分を死に至らしめそうになるから。
前を向こうとも思えないし、何かを変えようとも考えられなくなり、自分の存在意義も見失った。ついには、散歩にも行けなくなり部屋でうずくまっていることが増えた。
そうして現実から逃げるように陰鬱とした日々を過ごしている中、23時からのニュース番組のエンディングが流れた。もうそんな時間かと現実に引き戻された時、ふとそのエンディングのメロディが耳に残った。エンディングが終わり、風呂に入って出てからも残った。こんなことは初めてで、少しくすぐったい感じだったから全部聴いてみることにした。すぐに24時間営業のレンタルショップに走り、その曲が入ったCDを探した。一瞬だけ見たタイトルとアーティスト名を手掛かりに探し当て、家に帰ってすぐにデッキにCDを入れて流した。他の曲はカットし、その曲だけを流した。
体中に鳥肌がたった。今の自分には十分なほどに刺さった。まさに今の自分の思いが歌になったようだった。
そうだ、大きな歯車を回すための小さな歯車もあって、それなしでは回らなくなることもある。大層な使命なんかなくても、大きな何かを支えられることもあるんだ。それに気づいた時、ちっぽけな夢が胸の中で光り出した。無力感に押しつぶされそうになり忘れていたけど、自分にはやりたいことがあった。誰にも言っていない、言えば恥ずかしくなるような夢があったんだ。それを今なら広げられそうだ。
勲章がなくたっていい。輝いてなくたっていい。自分の中に次へと引き継ぎたい夢がしっかりあれば、根拠はなくても今は進んでいけそう。そう思えた時に見た夜空には、いつもは見えなかった星が見えた。
次にリクルートスーツに袖を通す時は、少しは胸を張れそうな気がした。
Mr.Children/進化論